
物理やバイオメカニクスの世界では、「力」と「パワー」は完全に別物です。
ここでは、このややこしい力とパワーの違いについて説明していきます。
バーベル100kgを担いでいても、パワーはゼロ
力とは、物体の状態を変化させる能力の量を表すものです。
図のように100kgのバーベルを持っている人にかかる力は、重力やバーベル100kgの重さ、地面反力などが挙げられます。

一方、パワーとは、単位時間あたりの仕事量を指し、仕事率とも言われます。すなわち、短い時間で大きな仕事をこなせると、パワーが大きいということです。
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仕事量は力の大きさと移動距離をかけたものです。
上の図のようにバーベル100kgを持っているだけだと、移動距離は0なので、力100kgに耐え得る力を発揮していても仕事量は0です。

なので、パワーも0になるわけです。
パワー=力×速度
パワーは力と速度の積で表すことができます。
なぜなら、パワーは単位時間あたりの仕事量なので、以下の図のように式を変形させられるからです。

したがって、パワーが大きいとは、「大きな力を発揮しながら高い速度で物体を移動させられる」ことを意味します。
つまり、バーベル100kgでデッドリフトを3秒かけて行うAさんと、1秒で挙げられるBさんでは、Bさんの方がパワーがあるということになります。
筋肉のパワーが最大になるのは、最大筋力の約30%
パワーが力と速度の積であるなら、大きな筋力で、かつ高い速度で筋を収縮できれば、すごいパワーが出せるはずです。
しかし、筋肉には、収縮速度が高くなると発揮できる筋力が低くなる性質があります。
そのため、素早く動かそうとすればするほど、筋は力を発揮しにくくなるわけです。
この筋収縮の力と速度関係は、以下の図のように表されます。また、その力と速度の掛け算であるパワーの値をプロットすると、おおよそ最大筋力の30%くらいでパワーが最大になることが分かります。

そして、パワートレーニングを行ったり、そもそもの最大筋力を高めたり、スピードトレーニングを行ったりすることで、このパワー曲線は変化させることが可能です。例えば重量挙げの選手では、一般人と比べて最大筋力も、負荷無しの時の収縮速度も高く、最大パワーも高いことが分かっています。
このように、パワーはトレーニングを行うことによって変化させられる、アスリートがパフォーマンスを高める上で重要な能力なのです。

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