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走幅跳のバイオメカニクス(走幅跳のコツ)

走幅跳のバイオメカニクス(走幅跳のコツ)

走幅跳は、高めた助走スピードを生かして、踏み切りで大きなブレーキをかけることによって身体を浮かせ、より遠くに跳ぶ種目です。

 

参考動画(走幅跳:関東インカレ2019)

 

ここでは、この走幅跳のコツについて、バイオメカニクスの視点から説明していきます。

 


走幅跳の記録を構成する局面

 

走幅跳の記録(跳躍距離)は、以下の局面から成り立ちます。

 

①踏み切り距離(踏み切り離地時のつま先と身体重心位置の距離)

 

②空中距離

 

③着地距離(着地時の踵と身体重心位置との距離)

 

このうち、①と③は脚の長さや姿勢によって決まります。

 

一方②の空中距離は、踏み切り直後の身体重心の速度やその踏み切り角度によって決まります。

 

空中距離は、全体の跳躍距離のほとんどを占めるため、この空中距離を伸ばすこと、すなわち、踏み切り直後の重心速度や角度こそが、走幅跳のパフォーマンスを高めるために最も重要だと言えます。

 

 

最も重要なのは助走スピード

では、踏み切り直後の重心速度を高めるためには何が必要なのでしょうか?

 

それは言うまでもなく、助走スピードです。

 

助走スピードが高いほど、踏み切りった直後のスピードも高まりやすいからです。

 

助走スピードは、水平方向へのスピードを表すものです。実際の踏み切りでは上方向(鉛直方向)のスピードも関わります。

 

しかし、走幅跳の記録と関係が強いのは、上方向(鉛直方向)のスピードよりも、水平方向のスピードであることが分かっています。

 

※太田ほか(2010)より作成

 

このことからも、いかに助走で高いスピードを獲得できるかが大切だということが分かるでしょう。

 

そのため、日頃からしっかりと最大疾走スピードを高められるようなトレーニングを行い、助走の中でも高いスピードを出せるようにしておくことが必要です。

 

最適な踏み切り角度は?

いくら高いスピードで助走ができたとしても、そのまま前に走り切ってしまっては、空中距離を伸ばすことはできません。

 

当然、踏み切り動作を行い、跳躍角度を上に向ける必要があります。水平方向のスピードの方が重要であることは事実ですが、踏み切り後の上方向(鉛直方向)への速度とも、記録と有意な相関関係がみられています(太田ほか,2010)。

 

さらに、世界一流競技者の中でみると、踏み切り直後の水平速度よりも、鉛直速度の方が、記録との関係が強かったことも報告されています(小山ほか,2009)。

 

モノを飛ばす場合、飛距離が最も伸びるのは投射角度が45°の時です。

 

しかし、実際の走幅跳での踏み切り角度は15°〜25°程度になります。

 

これは、助走スピードが速過ぎて、良い踏み切りを行ったとしても角度を上に向けることが難しかったり、着地時の身体重心の位置が、踏み切り時の位置よりも低いことが原因だと考えられます。

 

 

※小山ほか(2009)より

 

世界記録保持者のM.パウエル選手でも、踏み切り角度は22.1°となっています。

 

とは言っても、理想となるのは高い水平速度を保ったまま、上方向への速度を獲得し、踏み切り角度を45°に近づけることです(ヒトの身体では不可能に近いですが)。

 

物理的にこの方が空中距離を伸ばせることは言うまでもありません。

 

では、少しでもそのような踏み切りに近づけるためには、どのようなことが必要なのでしょうか?

 

ブレーキ動作で上への力を生む

走幅跳の踏切は、ほとんどブレーキであると言っても過言ではありません。以下の図は、走幅跳の踏切中の地面反力を表したものです

 

※金子(2006)より作成

 

このように、走幅跳の踏切では、前への推進力に関わる力はほんの少しで、ほとんどがブレーキ動作になります。

 

これは、非常に高い水平速度で走りながら、一瞬で上方向の力を生み出すために避けては通れない現象であると言えます。

 

走幅跳の踏み切りは、高いスピードで動く自分の体重に程よくブレーキをかけることで、上方向へ体を飛ばす競技だとも言えます。

 

そのため、走幅跳の踏み切りのコツとしては、「踏切板を叩くように踏み切る」ではなく、「踏み切りは身体の前にスッと置くように」とよく言われています。

 

準備動作で腰を下げる?

踏み切り動作のコツとして、もう一つ挙げられるのが「踏み切り準備動作で腰を下げる動作」です。

 

踏み切り手前で一度重心位置を下げておくことで、踏み切りで大きな上方向の力を発揮しやすくなります。実際に、世界一流選手でもこのような動作がみられています(下図参照)。

 

※小山ほか(2009)より引用:2007年大阪世界選手権上位3選手のスティックピクチャー

 

※小山ほか(2009)より作成

 

このように、踏み切り2~1歩前で、重心を沈み込ませるようなイメージを持っておくと、助走スピードを生かしたまま、より上方向の力を生みやすくなると言えます。

腕や脚の振り上げを使う

走幅跳のさらなるコツとして、「腕や脚の振り上げ」を使うことが挙げられます。踏み切りにおいて、腕や脚を勢いよく振り込み、そして引き上げるように使うことで、鉛直方向の地面反力をより増やすことができると考えられます。

 

 

これは、腕や脚のスイングによって、身体が下方向に抑え込まれ、下肢筋群がより大きな力を発揮しやすくなるからだと考えられます。

 

以上のような、「踏み切り動作のコツ」をまとめると

 

「高い助走スピードで、踏み切り手前で重心を下げ、足をスッと前に出し、腕や脚の振り上げを意識して跳ぶ」

 

となります。すべて一度に意識するのは難しいので、まずは一つを意識して、徐々に自動化できるように練習していきましょう。

 

 

合わせて読みたい!

 

 

 

参考文献
・太田洋一, 中村力, 浦田達也, & 伊藤章. (2010). 簡易な測定法を用いた走幅跳におけるパフォーマンスと助走・踏切速度の関係. コーチング学研究, 24(1), 27-33.
・小山宏之, 村木有也, 吉原礼, 永原隆, 柴山一仁, 大島雄治, ... & 阿江通良. (2009). 走幅跳のバイオメカニクス的分析. 世界一流競技者のパフォーマンスと技術. 財団法人日本陸上競技連盟, 東京, 154.
・金子公宥. (2006). スポーツ・バイオメカニクス入門: 絵で見る講義ノート. 杏林書院.

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