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早生まれは活躍できない?【陸上競技と成長期、早熟型】

早熟型とは?

スポーツにおける早熟型とは、身体の発育発達度合いが早いために、ジュニア期の早い段階から他と比べて非常に高いパフォーマンスを発揮できるけれど、その後伸び悩んでしまうパターンのことです。

 

 

小学生の大会では群を抜いて活躍できていた選手が、中学、高校のクラスになると他の選手と変わらない記録しか残せなくなることがあるのはこのことが関係しています。

 

 

運動能力の発達度合いは、成長期のタイミングで大幅に変わります。

 

 

以下の図は、身長の伸び度合いのピーク(PHV:Peak height velocity)を基準として、他の運動能力の伸び度合いがどう変化するかを調べたものです(Philippaerts et al.,2006;サッカー選手対象の研究)。

 

 

 

このように、身長、ならびに体重の向上度合いのピークと、他の運動能力の向上度合いは概ね一致していることが分かります。また、その向上度合いも著しいものです。

 

 

つまり、特に子供~中学での運動能力の善し悪しは、成長期が来ているかどうかがとても大きく影響するということです。同じように練習していても、どうしても運動能力に大きな開きが出てきます。

 

 

「スポーツのパフォーマンスが上がらないのは、決して子供の努力が足りないからではない。」というわけです。

 

~ちなみに~

 

下図の30mダッシュの向上度合いのグラフを見てみましょう。PHVの前に記録の伸び度合いがマイナスに転じている、つまり記録が悪くなる傾向が読み取れます。

 

これは、“adolescent awkwardness(思春期不器用)”と呼ばれているもので、体格、身体能力の著しい発達によって、一時的に運動の協調性が乱れ、パフォーマンスが低下してしまう現象です。

 

急激に背が伸びたりして、脚が上手く回らなくなったり、走りのフォームにぎこちなさが出てきてしまう…このようなケースは、中学入学くらいの男子にたまに見られるものではないでしょうか?

 

この思春期不器用はすべての子供に発生するわけではなく、個人によっても走動作への影響は様々だと言われています(國土,2019※学会発表)。


早生まれは小学生の大会で活躍できない?

この成長度合いというのは、子供の生まれ月の影響を強く受けます。同じ小学5年生でも、4月生まれと3月生まれでは、1年近く差があるわけですから、当然4月生まれの成長度合いが早い傾向はあるでしょう。

 

 

以下の図は、全国大会出場選手や日本代表選手の生まれ月の分布です。

 


特に小学生、中学生の段階では、4月~6月生まれの選手が活躍しやすい傾向が読み取れます。このように、同じ学年の生まれ月が学業やスポーツ成績に及ぼす影響は、相対年齢効果と呼ばれています。

 

 

そして、この相対年齢効果は、高校~シニア期まで残ることも指摘されています。

 

 

小学生など、早い段階で活躍できるということは、「スポーツに対する自信、努力すればできるようになるという向上心」など、その時期のスポーツに対する有能感に大きく関わることです。

 

※運動有能感
身体的有能さの認知(自身の能力に対する自信)、統制感(努力すればできるようになるという自信)、受容感(仲間から受け入れられているという自信)の3つからなる有能感(日本陸上競技連盟,2019)。

 

この有能感の差が、その後のスポーツの継続率にも大きく影響すると考えられるというわけです。

 

 

本当はトップ選手になれるような資質があったのに、成長のタイミングに差があるだけで有能感が育たず、競技継続を断念してしまうというのは非常にもったいないことです。

その人の才能は、少なくとも高校~大学まで分からない

生まれ月による成長度合いの差が、小中学生での競技成績に影響すると言っても、その人に秘められたポテンシャルに差があるわけではありません。ただ、成長のタイミングによって恵まれる機会に違いが出るだけです。

 

 

成長のタイミングが遅い人であっても、その後も競技を継続していけば、早熟と呼ばれる選手と同様のパフォーマンスを発揮できるようになることはザラにあります。少なくとも陸上競技では、高校~大学まで競技を続けてみなければ、その才能の判断は難しいというわけです。

 


特に小学生、中学生の若いカテゴリーでは、「スポーツの成績に関わらず、競技自体を面白い、楽しい」と思える心を育てることが重要です。

 

 

また、そのカテゴリーでのトップ選手だけではなく、すべての選手がコーチや競技関連者からの手厚いサポートが受けられる、環境づくりにも目を向けていく必要があるでしょう。

 

 

一方で、早熟型の選手が、晩熟型の選手に追い付かれてしまい、以前のように活躍できなくなってしまい、バーンアウトしてしまうようなケースも多いはずです。

 

 

このような早熟型、晩熟型の選手の存在を理解した上で、コーチング活動に当たることができる指導者が増え、生涯にわたってより一層、陸上競技を楽しめる人たちが増えていくことを願っています。

参考文献

・Philippaerts et al. (2006). The relationship between peak height velocity and physical performance in youth soccer players. Journal of sports sciences, 24(3), 221-230.
・國土将平. (2019). 07 発-12-ポ-33 身長の現量値, 発育速度, 走速度の変化パターンからみた走動作思春期不器用の出現. In 日本体育学会大会予稿集 第 70 回 (pp. 215_3-215_3). 一般社団法人 日本体育学会.
・日本陸上競技連盟(2019)競技者育成指針の基本的な考え方.競技者育成プログラム―東京、そしてパリへ―.pp.10-15.
・日本陸上競技連盟(online 3)タレントトランスファーガイド. https://www.jaaf.or.jp/pdf/development/transferguide.pdf.

 

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