ある学習から身に付けた能力が、他の学習に与える影響を、学習の転移(transfer of learning)といいます。
スポーツの世界においても、ある運動で高めた能力を、自身の競技種目に活かそうとする場面は多くあるはずです。
例えば
・バスケットボールやバレーボール選手が、オリンピックリフティング(重量挙げ)に取り組むことで、ジャンプ力を向上させる
・400m走の選手が100m走や200m走に取り組むことで、スピードを強化し、400m走の記録を向上させる
または
・中学では野球をしていたが、高校からやり投げを始めてみると一気に日本一まで登りつめてしまった
・以前は100m走をやっていたが、ボブスレー競技をやってみると、五輪代表候補になってしまった
などのことは、決して稀ではないでしょう。
このように、学習効果、トレーニング効果の転移現象を背景にして、他の競技種目での可能性を引き出し、育成していくことを「タレントトランスファー」といいます。
実際に、日本における世界レベルのスポーツ選手と「タレントトランスファー」には強い関わりがあり、競技間や種目間でトランスファーが行われた経歴は多くあります。
・男子100m日本記録保持者(2016年時点)の伊東浩二選手が元々は400mに取り組んでいたこと
・男子400mハードル日本記録保持者であり、世界選手権で2度の銅メダルを獲得した為末大選手は、中学時代100mや200mで活躍していたこと
・女子3000m障害日本記録保持者の早狩美紀選手が高校時代3000mでIH優勝、さらには400mハードルにも取り組んでいたこと
・男子やり投げにおいて、世界選手権で銅メダルを獲得した村上幸史選手は元々野球をやっていたこと
・北京五輪男子4×100mリレー銅メダリストであり、長く日本スプリント界を牽引してきた朝原宣治選手が高校時代はハンドボール、大学から陸上を始め、走幅跳で日本トップの記録を持っていること
など、書き出せばきりがないほど競技種目間トランスファーの事例が多いのです。
さらに、このような面白い事例を動画で紹介します・・・。
・10種競技世界記録保持者が400mハードルに挑戦し、いきなり48秒台のタイムをたたき出す
・100mスプリンターが本気でラグビー転向するとこうなる
また、渡邊ほか(2013)、渡邊(2014)は、日本代表として活躍した選手の経歴を調査しています。
ここでは
・代表選手のうち、中学で全国大会出場は約40%しており、高校では約80%が出場、そのうち約8割が入賞していた。
・複数種目を同時に実施しながら、徐々に種目を絞っていった。
・小学校で陸上競技のみをしていた選手は10%ほどであり、中学で70%、高校では98%であった。
などが報告されています。
さらに、森丘(2014)では、
小中高等学校、大学、実業団時代における競技種目関のトランスファー率について調査しており、いずれもトランスファーを経験している代表選手が少なくないことを示しています。