陸上のピーキング・調整メニューの作り方

陸上短距離走の調整(ピーキング)メニューの作り方




陸上短距離走の調整(ピーキング)メニューの作り方

 

 

 

 

レース前に調整メニュー(ピーキング計画)を入れる重要性

 

100分の1秒を競う陸上競技の短距離種目では、ほんの少しでも記録が悪かったりするだけで、順位に大きな影響が出ます。

 

 

例えば、2015年の世界選手権男子100m走決勝。このレースでは優勝したボルト選手と、2位ガトリン選手の差がわずか0.01秒、3位は同着でブロメル選手とドグラス選手、4位のロジャース選手は3位の2人と0.02秒差でした。

 

 

参考動画(2015年世界選手権男子100m走決勝)

 

 

このように、100分の1秒差、もしくは1000分の1秒差が「世界一」と「2位」「メダリスト」と「入賞者」を分けることになります。これが陸上競技です。

 

 

そのため、選手はほんの少しでも高いパフォーマンスを発揮するために、最高の準備をする必要があります。レース前にキチンと疲労を抜いて、万全の状態で臨む必要があることは言うまでもありません。

 

 

この時に重要になるのが、レース前の「調整メニュー」です。この「調整」とは、疲労を抜いたり、心の準備をしたり、技術や当日の戦術の最終確認をしたりして、レースで高いパフォーマンスを発揮するための最終準備のような意味合いです。

 

 

ここでは、陸上短距離において「調整メニュー」はどのような視点で計画するべきかについて紹介していきます。

 

 

 

調整メニューの作り方

 

試合前に練習量を減らし、疲労を抜いてパフォーマンスを高めようとすることは「テーパリング」とも呼ばれています。ここでは、テーパリングを考えるうえで重要な「期間・量・強度・頻度」について、以下のガイドラインに沿って、考えていきます。

 

 

 

 

いつから調整する?

調整期間の目安はおおよそ2週間が良いでしょう。重要なレースの2週間前から「調整メニュー」に入ることができるように、スケジュールを管理しておきます。

 

 

もしも、2週間のうちにレースが複数ある場合、最重要のレースに合わせられるように、他のレースを調整の一環として認識するのもアリです。

 

 

どちらの大会も重要視する場合は、最初の試合の2週間前から調整期間に入り、試合が続く期間でパフォーマンスを維持するトレーニングを入れる必要があります。

 

 

 

どれくらい量を減らす?

トレーニング量は、最初の1週間で調整期間前の3割程度まで減らします。その後は減らし方を緩やかにして、レース直前は1割程度。

 

 

調整期間までにしっかりと練習がこなせている場合は、このような計画で問題ありません。しかし、怪我などで調整期間以前の練習が積めていない選手は、調整期間もトレーニング量をやや増やして、パフォーマンスを高める土台を作っておく必要があります。

 

 

 

強度はどうする?

調整期間では、できる限りトレーニングの強度を下げないようにします。むしろトレーニング強度を高めて、より高い出力を出せるようなトレーニングを重点的に行います。こうすることで、トレーニング量を減らしながらも、それまでに得られたトレーニング効果を維持することにもつながります。

 

 

100m走で言うと、より高いスピードでスプリントを行ったり、より高重量のウエイトトレーニングやパワー系のトレーニングを重視し、爆発的な力発揮能力を向上させていきます。

 

 

頻度はどうする?

頻度は、調整期間までのトレーニングと比較して8割程度にしておきます。レース前の細かい技術や、運動感覚のようなものを研ぎ澄ませるためにも、あまり練習頻度を減らしすぎない方が良いでしょう。

 

 

ただ、連日高強度のスプリントを行うのは疲労を蓄積させるリスクが高いので、頻度は下げないにしても強度の高いトレーニングを連続して設定してしまわないよう注意が必要です。

 

 

 

調整期間の栄養摂取

グリコーゲンの貯蔵

グリコーゲンとは、筋肉の中に蓄えられている糖質のことです。強度の高い運動時にはこのグリコーゲンが重要なエネルギー源になり、このグリコーゲンが不足している状態だと、ハイパワーの発揮やその持続能力に悪影響が出てしまいます。

 

 

そのため、レース前には必ず、この筋肉内のグリコーゲンの濃度が不足しないようにしなければなりません。

 

 

グリコーゲンを貯蔵するためには、「糖質」の摂取を行う必要があります。糖質とは一般的に言われる炭水化物のことです(炭水化物には食物繊維も含まれますが、食物繊維はエネルギーにはなりにくい。食物繊維以外の炭水化物は糖質に分類される)。したがって、糖質を多く含む「お米」などの食品を摂取しなければなりません。

 

 

短距離選手の目安としては、体重1㎏あたり5-7gの摂取を目指しましょう(Burke et al.,2011)。体重60㎏の人が体重1㎏あたり6gの摂取で、1日1440kcal分、炭水化物からエネルギーを摂取することになります。ちなみにお米お茶碗1杯(0.5合)で280kcalくらいです。この量はトレーニング期間中は継続して摂取する必要があると言えます。

 

 

しかし、調整期間中はトレーニング量が減り、練習によるグリコーゲンの消耗度合いも小さくなることが予想されます。したがって、普段から糖質量を意識して確保できている場合は、あえて糖質の摂取を増やそうとしなくても、自然とグリコーゲンの貯蔵量は高まっていく可能性が高いです。

 

 

自身のトレーニング量と食事量を把握しながら微調整していく必要があります。

 

 

 

クレアチンリン酸の貯蔵

 

クレアチンリン酸も、グリコーゲンと同様に、爆発的なパワー発揮やその持久性を生み出すのに重要な、筋肉内のエネルギー源です。短距離選手のみならず、跳躍、投てき選手など、爆発的なパワー発揮が求められる選手であれば、このクレアチンリン酸を多く蓄えられている方が有利だと言えます。

 

 

このクレアチンリン酸を増やすためには、サプリメントによる摂取が必要になります。クレアチンサプリメントを摂取することで、筋内のクレアチンリン酸の貯蔵量を30%ほどは高めることができます(Peeling & Binnie,2018)。

 

 

このようなクレアチンモノハイドレートと呼ばれるものであれば、比較的安価で取り入れやすいと考えられます。かつ、胡散臭いサプリメントよりもきちんと効果が表れるので、サプリメントの中では最も活用すべき部類に入ります。

 

 

飲み方は、1日当たり3-5gを200ml程度の水分と一緒に摂取します。糖質を含んだ飲み物であれば尚良しです。

 

 

また、トレーニングのボリュームを高め、トレーニング効果UPにもつながるので、試合前だけでなく、日ごろから摂取しておくようにしましょう。

 

 

 

減量について

陸上短距離において、当然余分な体脂肪は重りになります。なので、ある程度体脂肪率は低くある方が望ましいと言えるでしょう。

 

 

しかし、体脂肪を減らすためには、消費エネルギーよりも摂取エネルギーを低く保つことが必要です。レース直前にそのようなハードなトレーニングをしたり、食事の量を減らしたりしてしまっては、筋肉のグリコーゲンレベルが下がってしまったり、微量な栄養素が不足しやすくなってしまったり、肝心の競技パフォーマンスに悪影響が出てしまいます。

 

 

調整期間に減量をすると言っても、体脂肪だけを2週間程度で何キロも落とすことは現実的ではないですし、減量をするなら調整期間前に終わらせておくことが重要だと考えられるでしょう。

 

 

 

調整期間・レースに向けた心構え

 

レースの前になると、記録への期待、または不安で妙にソワソワしたり、もっと練習しておきたいと考えたり・・・いろいろな思いが交錯します。また、レース当日の心理状態と言うのは、0.01秒を争うスプリンターにとって重要な意味を持ちます。

 

 

スタートを落ち着いて決めることができるか、ペース配分をミスなく行うことができるか、緊張で動きが硬くなってしまわないか・・・そのようなことへの準備も含めて、調整期間の練習で「確認」をしておくことが重要になります。

 

 

具体的には、レースを想定したトライアルを行ったり、試合当日の自分のレーンを確認してイメージトレーニングを行ったり、試合会場でトレーニングができる場合は、その会場の雰囲気に慣れておく・・・などが挙げられます。

 

 

さらには、自身の課題としている点を重点的にトレーニングし、修正して置いたり、どういう状況で自分はハイパフォーマンスを発揮できるか、逆にどういう状況が苦手なのか、自己分析を日常的に行って、自分の強みと弱みを知っておくことも必要です。

 

 

 

調整計画の例

 

以下は、400m選手における、トレーニング期間と調整計画の例です。これがすべてではありませんが、参考程度に。

 

 

 

 

参考文献

・Izquierdo, M., Ibañez, J., Gonzalez-Badillo, J. J., Ratamess, N. A., Kraemer, W. J., Häkkinen, K., ... & Gorostiaga, E. M. (2007). Detraining and tapering effects on hormonal responses and strength performance. The Journal of Strength & Conditioning Research, 21(3), 768-775.
・Mujika, I., & Padilla, S. (2003). Scientific bases for precompetition tapering strategies. Medicine & Science in Sports & Exercise, 35(7), 1182-1187.
・Bosquet, L., Léger, L., & Legros, P. (2002). Methods to determine aerobic endurance. Sports Medicine, 32(11), 675-700.
・Bosquet, L., Montpetit, J., Arvisais, D., & Mujika, I. (2007). Effects of tapering on performance: a meta-analysis. Medicine & Science in Sports& Exercise, 39(8), 1358-1365.
・Burke L.M. (2011). Carbohydrates for training and competition. Journal of Sports Sciences. 29, S17-S27.
・Peter Peeling and Martyn J. Evidence-Based Supplements for the Enhancement of Athletic Performance. Binnie International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 2018, 28, 178-187.



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