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砂浜スプリントトレーニングで得られる効果と走りのコツ

砂浜スプリントトレーニングで得られる効果と走りのコツ

陸上競技の選手が良く取り入れているであろうトレーニングに、「砂浜トレーニング」が挙げられます。

 

この「砂浜トレーニング」ですが、なぜわざわざ、足場の悪い砂の上という環境でトレーニングをするのでしょうか?何となくみんなやってるから、良いトレーニングだと聞くから…という理由で砂浜トレーニングを実施している選手は意外に多いでしょう。

 

そこでここでは、この「砂浜トレーニング」の特徴、考えられるメリットについて紹介していきます。


砂浜とトラックの違いから予想されること

砂浜での走りと、陸上競技場のトラックでの走りは当然異なるはずです。その主な違いとして以下の2点が考えられます。

 

後ろに蹴るだけではなかなか進めない

まず1点目は、「後ろに蹴るだけではなかなか前に進めない」と言うことです。砂なので、後ろに蹴ろうとすると、砂ごと後ろに抜けていってしまいます。

 

陸上競技場のトラックや坂道だと速いのに、砂浜では上手く走れない人は、地面を極端に後ろにキックするような特徴があるかもしれません。

 

 

滞空時間に余裕がなくなる

2点目に、「滞空時間に余裕がなくなり、素早く動作を切り返さないといけなくなる」ということが挙げられます。

 

砂浜でジャンプをするのと、陸上競技場のトラックでジャンプをするのでは、当然トラックでの方が上手く跳ねることができるでしょう。砂浜では、上手く弾むことができなくなります。
そのため、走っていても空中に一瞬で弾むことが難しくなり、滞空時間に余裕がなくなりやすくなってしまうことが考えられます。なので、その短い滞空時間の間に、素早く動作を切り返すような走りをする必要が出てくる・・・ということが考えられます。

 

砂浜とトラックでの実際のフォームの違い

これらに関して、Alcaraz et al.(2011)は、実際に砂浜スプリントとトラックでのスプリントのフォームの違いを調べています。

 

・速度の低下度合いは男性で15.8%、女性で12.4%ほどだった。
・ストライドの低下と、接地時間の増加度合いは顕著だった。
・ピッチ、滞空時間の差はわずかだった。
・接地期に身体がより前傾し、重心が落ちたようなフォームになっていた。
・離地時にかけて、股関節の伸展域が小さくなっていた。

 

 

砂浜スプリントでは、主に接地時にかけて「腰が座った」ようなフォームになってしまうことから、この研究では、「スプリントフォームに悪影響があるかもしれない」として、砂浜スプリントトレーニングに対してはやや否定的です。

 

しかしながら、「動作が大きく変わる=スプリントのトレーニングとしては好ましくない」という理屈で行くと、さらに動作が変わりうる(そもそも動作が違う)急な坂道ダッシュやウエイトトレーニングは悪影響なのか・・・?という疑問が浮かんできます。

 

これに関してスレッド走で例を挙げると、より動作が大きく変わる重いスレッド牽引走の方が、スプリント加速パフォーマンス向上に効果的かもしれないという主張が散見されます(Kawamori et al.,2014;Morin et al.,2017)。

 

Alcaraz et al.(2011)は、各関節の力発揮やトレーニング効果にまで言及したものではないですが、少なくとも「フォームが大きく変わるから、トレーニングとしては悪いもの」と決めつけてしまうのは早計でしょう。

 

むしろ、フォームが大きく変わるくらいの負荷がある方が、トレーニングとしては効果が高いのではないかとも考えることができます。

 

見た目云々ではなく、目的の部位や動作、機能に、適切に負荷をかけられているかどうかで判断すべきでしょう。

 

とは言え、より繊細な動作の洗練、またはその修正が求められるような時期に、極端にスプリントフォームが変わり得るトレーニングを多くこなすのは危険です。したがって、大切なレース前の調整期間に、このようなトレーニングを多くこなすことはお勧めできません。

砂浜スプリントで得られるであろう効果

以上のような特徴から、砂浜トレーニングの効果について考えてみます。

 

短い滞空時間で動作を切り返す能力「ピッチの向上」

まず、トラックよりも滞空時間が短くなるため、その短い時間の間に動作を切り返す筋力を高めるのに効果的であると考えられます。動作を短い時間で切り返すことができると言うことは、それは主に「ピッチの向上」につながると言うことです。

 

また、地面を後ろに大きく蹴ってもうまく進まない環境であるということから、「過度な足の流れを防ぐ」効果も期待できるかもしれません。

 

大腿部分が後ろに大きく動くようなフォームでは、腿を前に引き出すタイミングは遅れてしまいます。後ろに腿を大きくスイングする手前でブレーキをかけて、素早く次の接地の準備をする、それができるための筋力をつけるのにはもってこいのトレーニングだと言えるでしょう。

 

 

身体全体を使って、真下に地面を捉える能力

砂浜では、トラックで走るときよりも滞空時間が短くなりやすいという特徴はあると言えるでしょう。これは、地面の垂直方向にも力を伝えづらくなっていることが関係しています。

 

なので、砂浜に着いている足だけで地面を押して、体重を浮かせるのでは、力が不足しすぎてしまいます。なので、身体全体(他の部位)を上手に使って、垂直方向に力を伝える補助をしてあげる必要があるでしょう。

 

そこで重要なのが、地面に着いていない方の脚(遊脚)の使いかたです。接地のタイミングに合わせて、腿を挟み込むように、遅れずに引き出すことで、地面垂直方向に力を伝える補助ができます。

 

支持脚もひっかくように手前に引き込むのではなく、真下に踏むようなイメージで接地をすると良いかもしれません。某海外の陸上コーチがスプリントの指導中に「Vertical!Vertical!」と言っている光景を目にするのは、これと似たような意図があると考えられます。

 

 

また、脚だけでなく、肩、腕も少し下に抑えるようにリラックスして振るようにできれば、さらに垂直方向に力を伝える補助ができるかもしれません。

 

「砂浜トレーニング」は、動作を積極的に切り返し続けるフォーム、そのための筋力を高めるのに、効果的なトレーニングであると言えるのではないでしょうか?

参考文献

・Kawamori, N., Newton, R. U., Hori, N., & Nosaka, K. (2014). Effects of weighted sled towing with heavy versus light load on sprint acceleration ability. The Journal of Strength & Conditioning Research, 28(10), 2738-2745.
・Morin, J. B., Petrakos, G., Jiménez-Reyes, P., Brown, S. R., Samozino, P.,& Cross, M. R. (2017). Very-heavy sled training for improving horizontal-force output in soccer players. International journal of sports physiology and performance, 12(6), 840-844.
・Alcaraz, P. E., Palao, J. M., Elvira, J. L. L., & Linthorne, N. P. (2011). Effects of a sand running surface on the kinematics of sprinting at maximum velocity.Biology of Sport. 28(2)95-100.

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