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陸上競技の体幹トレーニング

陸上競技の体幹トレーニング

「体幹」とは、すなわちその言葉の通り「体の幹」にあたる部分を指す言葉です。

 

最近、「体幹トレーニング」という言葉がどこのスポーツ現場に行っても広く使われるようになりました。陸上競技のトレーニング現場でも同様です。

 

しかしながら、この「体幹トレーニング」という言葉が一人歩きして、「なんにでも効く万能薬」と化してしまっているのも現状です。「なんでその体幹トレーニングを行う必要があるのか」を理解せず、「とりあえず体幹やっとけば良いでしょ!」という認識でありふれてしまっている現状に違和感を持たずにはいられません。

 

そこでここでは、「陸上競技のパフォーマンスを高めるために理解しておくべき体幹トレーニングの役割と方法」について考えていきます。

巷での体幹トレーニングのイメージ

巷で広く認識されているであろう「体幹トレーニング」?

 

 

巷でよく知られるところの体幹トレーニングと言えばまずコレです。これはプランクと呼ばれるものです。背中からお尻まで一直線になるような姿勢を正しくキープする、そのための筋肉の協調性、安定性をチェックしたり、軽い刺激を入れたりするエクササイズです。別にこのエクササイズ自体を否定する訳ではありません。背中からお尻まで一直線になるような姿勢を正しくキープするための筋肉の協調性、安定性をチェックしたり、軽い刺激を入れたりする目的、その他諸々の目的ありきで実施する分には何の問題もありません。

 

ただ疑問を呈したいのは「この体幹トレーニングを行なっていれば、体幹がつよくなって、ブレない身体が手に入って、運動パフォーマンスが向上する」という認識です。

 

 

「プランク=体幹が強くなってパフォーマンスが上がる」という認識の問題点

強度がとても低い

まず、プランクのような自体重で姿勢をキープするようなエクササイズでは「体幹」と呼ばれる部位にそこまで大きな負荷がかかりません(ここでいう「体幹」とは、脊柱を支えてその位置を保つ筋群を指しています)。考えてみれば至極当然です。背中に数十キロのプレートが乗っている場合や、運動習慣が無く身体全体の運動機能が著しく低下している方が実施しているのならまだ納得できる部分があります。しかし、爆発的なパワーを発揮したり、日々何キロもランニングを行うアスリートにとって、これが体幹のブレを防いでパフォーマンスを大きく向上させるに足るトレーニング刺激となり得るかと言われると、さすがに首をかしげざるを得ません。

 

実際に、このフロントプランクにおける腹直筋の活動量は、最大収縮力の約20%ほどだと言われています(Aspe & Swinton,2014)。マックスの5分の1程度の筋力で、全身をフルに使う全力疾走、爆発的な跳躍運動、投てき運動での負荷に耐えうる「体幹」を十分に強化することができると言えるでしょうか?また、姿勢をピタッとキープするような単純な運動だけでその体幹とやらは十分に鍛えられるのでしょうか?

 

 

辛い=効果が高いではない

プランクを2分間ほど耐久しながらプルプル震えて、「めちゃめちゃ効いてる!強くなってる!」というコメントを残してトレーニングルーム去っていく人がいます。他のベーシックなウエイトトレーニングがしっかりとやれていれば、それは本人の達成感や爽快感だけの問題なので特に言及することはありませんが、問題視すべきは「プルプル耐久体幹トレーニング」に、大切なトレーニングのほとんどの時間を費やしてしまっている場合です。

 

「辛いし効いてる感じがある」のは間違いないでしょう。実際に筆者も2分プランクやれば悲鳴を上げます。しかし、一定の姿勢を長時間キープできる能力は、スポーツのパフォーマンスを向上させるためにそこまで重要なことなのでしょうか?フロントプランク耐久選手権なる競技会があるのであればまた話は別ですが、多くの場合スポーツのパフォーマンスを向上させるのに必要な体幹の能力というのは、低い出力で姿勢を長時間キープできる能力ではないはずです。

 

また、その運動で鍛えられているのは筋力というより持久力であり、それが何かパフォーマンスにつながる重要な能力の土台になるとも考え難いでしょう。

 

 

じゃあプランクって何?何でみんなやってるの?

「みんなやってるってことは、体幹(プランク)って重要なんじゃないの?」と言われたとします。確かにみんなやっているトレーニングは重要である可能性は高いかもしれません。それだけ効果を実感しているはずなんでしょうから。じゃあ何でこんなにスポーツのトレーニング現場でプランクがなされているのか?

 

これに対して一言、「すみません。よく分かりません。」(Hey Siri)

 

どうしてこんなにもみんな好き好んでプランクをやりたがるのかが、この記事を書いている筆者にも全く分かりません。とある有名人やメディアによって形だけが広まって、そのまま収集が付かなくなってしまっているのかもしれません。確かに、トップアスリートや有名なメディアが取り上げるトレーニングは、効果がありそう、強くなれそうだと感じてしまいやすいものです。

 

加えてこの「体幹」というワードは曲者で、その意味合いが非常に抽象的で、誰にとっても受け入れられやすい(直感的に効果が高そうだと認識してしまう)側面を持っているように感じられます。例えば、次のようなパターンです。

 

①メディア:「トップアスリートは体幹がブレない(トップアスリートの動画を挿入)」
②視聴者:「本当だ、トップアスリートは体幹がブレてない!」
③メディア:「トップアスリートはこんなエクササイズをしていた!(トップアスリートがやや難易度が高いプランクをしている動画を挿入)」
④メディア:「体幹が弱い人はブレるので、これができません(運動習慣の無いタレントがエクササイズを模倣し、失敗)」
⑤メディア:「これがトップアスリートの強さの秘訣。体幹をトレーニングが大事です!」
⑥視聴者:「なるほど。体幹(プランク)が大事なんだ。」

 

「あるエクササイズで姿勢をブラさずにキープできるorできない人の光景」と、「競技パフォーマンス中のブレない体幹のイメージ」は、トレーニングについてあまり考えたことのない人々にとって非常にリンクしやすいものです。

 

直感的にその重要性を誤認してしまうのも無理はありません。また、ここでいう「体幹」とは具体的に何を指しているのかを考える視聴者なんて数%も存在しません。「体幹」と言われれば「ああなるほど体幹の強さかぁ」以上のことを一般の方々は考えないのが普通です。少なくとも私の母は考えません。

 

ある有名アスリートやメディアの影響力は非常に大きいものです。「体幹トレーニング」の言葉の一人歩きもこのようなところから発展したものなのかもしれません。そして、いつの時代も、その言葉の意味や目的が取り除かれて形骸化してしまった「流行りのトレーニング」が絶えることは無いと考えられます。「タピオカの次は何が来るだろう・・・」と考えるのと同じように、「体幹」や「タバタ」の次は何が来るだろう…と考えるのが私の習慣になっています。

じゃあ体幹というの名のプランクって意味ないの?

いいえそんなことはありません。何かやれば何かの効果はあるわけで、それが競技種目のパフォーマンスに貢献すると判断できるかどうかがポイントになると考えられます。

 

冒頭でも述べた通り、プランクは「背中からお尻まで一直線になるような姿勢を正しくキープするための筋肉の協調性、安定性をチェックしたり、軽い刺激を入れたりする目的」で行うのであれば、立派なエクササイズです。姿勢を「バシッ!」と決められるかどうか、それに足る筋力や筋肉の協調性、安定性があるか、どこかにエラーはないかがチェックできて、その姿勢のキープの仕方、筋肉の使い方を身体にキチンと学習させられれば良いわけです。

 

そして、このプランク系のエクササイズの位置づけは、以下のようなピラミッドで例えると分かりやすいかもしれません。

 

 

ピラミッドの最下層は、そもそも身体が問題なく動かせるか、基本的な機能にあたる部分です。関節の可動域や基本的な安定性、協調性が欠如していないかなどです。その上に乗るのがそれらの関節や、ある基本的な動作における筋力、パワーに当たる部分、またその上に位置するのが、競技種目でのスキルパフォーマンスです。

 

簡単にまとめると「身体がそもそも問題なく安定して、協働して可動する」⇒「動くだけでなくパワーがある」⇒「種目でのスキルがある」…のピラミッドです。

 

そして、「体幹という名のプランク」は、その最下層に当たるものだと判断できます。基本的な姿勢をキープできるか、そのための脊柱回りの筋肉が協働して、かつ安定感を持って機能しているかを評価したり、その機能を学習する部分に当たります。つまり、基礎の基礎、そのプランクの姿勢がバシッと決められれば特に問題はないと考えられます。

 

ここで問題なのは、もう特に問題のないスキルを習得するためのエクササイズを延々とやり続けていることです。これではピラミッドの最下層で足踏みをしているだけにすぎません。簡単にプランクの姿勢をバシっと決められる人にとっては、専門種目のパフォーマンスを大きく向上させる、大事な大事な「体幹トレーニング」だとはとても言い難いわけです。

 

そして筆者の感想として、日々トレーニングをしている多くのアスリートにとって、その基礎の基礎に当たる機能的動作スキルは既に獲得できている場合が多いように感じられます。少なくともフロントプランクのような基礎の基礎ともいえるエクササイズは、ほとんどのアスリートが問題なく行えるように思えて仕方がありません。

 

それができる人は、ピラミッドの次のステップに進んで、その機能を「強化」させる必要があるわけです。その際に有用なのが、バーベルを用いたウエイトトレーニングです。

陸上競技のパフォーマンスに繋がる体幹の機能とは?

体幹トレーニングのピラミッド??

先に説明したピラミッドで言うと、基礎的な可動性や安定性、協働性というのは立派な「体幹の機能」ですし、それを強化して大きな力、パワーを発揮できるかどうかというのも体幹の機能です。なので、「これらを向上させる手段は全て体幹トレーニング」とみなすべきです。プランクだけが体幹トレーニングではないのです。

 

基礎的な体幹の機能に問題がありそうなのであれば、それを修正するためのエクササイズを実施すべきでしょう。股関節や肩回りの可動性や動的な安定性、腰回りの安定性や協働性などのエラーに応じて選択します(これについては理学療法士の方などの元へ相談なされてください)。

 

特に問題が無い場合、しっかりと身体の動きに負荷をかけて、漸進性の原則に則って強化を図る必要があります。この時、特にウエイトトレーニングは便利なことが多く、身体全体を一つのシステムとして機能させて、その動作での筋力、パワーを効率的に高めることができます。

 

かの名著、スターティング・ストレングスの著者であるマーク・リプトー氏は、次のように述べています。

 

足が地面に踏ん張る力を、手などを通して負荷にあてがうスポーツにおいて、腰や体幹の筋群を使って背骨を安定させるというのは間違いの無い事実ですが、この力を伝えるための筋肉の構造はなにも特別な物ではありません。

 

脚が力を生み出す「モーター」となり、背骨がそれを伝達する「トランスミッション」として機能します。大きなモーターがなければ背骨に大きな負荷は掛かりません。背骨は大切な役割を担いますので、その安定性も重要になります。この伝達システム全体に力が掛かると、モーターとトランスミッションは共に負荷に適応していきます。

 

スクワット、デッドリフト、プレス、オリンピックリフトといったバーベルトレーニングは体の力伝達システム全体を使うので、合わせてこの伝達システム全体を強化する事ができるのです。

 

「体幹トレーニングの落とし穴」Athlete Body.jpフィットネス業界のウソと戦う筋トレガイド(https://athletebody.jp/2012/04/15/core-stability-training/)より引用

 

 

バーベルを使ったウエイトトレーニングで体幹を鍛えよう

特に基本的な身体の機能に問題が無ければ、バーベルを使ったウエイトトレーニングで体幹を鍛えることを推奨します。スクワットやデッドリフトなど、種目はベーシックなものでよいでしょう。股関節周りが大きな力を発揮するとともに、腰回り、背骨回りには、その力に耐えるための負荷がかかります。下肢が発揮する力に耐えうる体幹を作るのであれば、下肢が力を発揮できる状況でなければ話になりません。それは不安定なバランスディスクの上では決して行うことのできないトレーニングです。

 

特に陸上競技では、地面にどれだけ力を発揮させられるかがパフォーマンスに大きく関わります。素早く加速するためには地面を大きな力でキックしなければなりません。跳躍でも一瞬で自分の身体を浮かせるための爆発的な力を地面に発揮する必要があります。投てきも然りで、地面に力を発揮できる環境に無ければ、投てき物に大きな力は加わりません。その時にかかる一瞬の負荷というのは非常に大きく、それに耐えうる「体幹の強さ」が無ければ、地面に力を効率的に伝えることはできません。

 

そのために、わざわざ体幹を鍛えるのであれば、やはり大きな負荷をかけて四肢の力発揮を伴わせながら行う必要があると言えるのではないでしょうか?地面に足を付けて、外部に高出力を発揮できる環境下でトレーニングできることが、結果的に体幹部を安定させる能力向上につながります。

 

 

スクワット

 

片脚スクワット

 

デッドリフト

 

ヒップスラスト

 

パワークリーン・ハングクリーン

走跳投につなげるその他の体幹トレーニング

ベーシックなウエイトトレーニングで、非常に高い力発揮に耐えうる体幹を鍛えながらも、陸上競技選手としてさらにパフォーマンスを高めたい場合、意識して鍛えておくと良い要素について紹介しておきます。

 

 

体幹の側屈・股関節の外転

陸上競技では「片脚」で力を発揮する場面が多くあります。その時に、片側の骨盤が落ち込んでしまうと、地面に一瞬で大きな力を発揮することができません。なので、股関節を外転させる筋力や、体幹を側屈させる筋力を向上させることで、その骨盤の傾きをできる限りキープできなければなりません。

 

 

ベーシックなウエイトトレーニングでは両脚での力発揮が多いため、なかなか股関節の外転、体幹の側屈筋力を高めることは難しいと考えられます。なので、片脚で爆発的な力発揮をするウエイトトレーニングを導入してみたり、片側の骨盤が落ち込まないように、大きな負荷に耐えるようなエクササイズを別に実施する必要性はあると考えられます。以下のようなステップアップで、骨盤を引き上げるような力発揮を強調できると良いかと思います。

 

参考動画

 

 

体幹の回旋

ベーシックなウエイトトレーニングでは、体幹を回旋させる負荷を加えることが難しいです。陸上競技では、股関節を伸展・屈曲・内転・外転させるのに必要な体幹の強さだけでなく、体幹を捻る強さも必要なことがあります。全力疾走をしたり、投てき運動の際には必須です。特に、腰椎周りを安定させて、胸椎周りをパワフルに動かせる能力は重要でしょう。

 

参考動画

まとめ

・根本的な身体の基礎機能(可動性、安定性、協働性など)が不足している場合は、まずそれらの改善を。
・問題なければ「漸進性の原則」が適応できる負荷を伴うトレーニングを。
・そのトレーニングとして、バーベルを使ったウエイトトレーニングは、体幹の安定を伴わせながら四肢の筋力やパワーを高められるという点で有用。四肢で大きな筋力を発揮するということはそれだけ体幹を安定させる筋群にも負荷が伴う。
・その競技種目に求められる体幹の機能に沿った「体幹トレーニング」をする必要がある。

 

「体幹トレーニング」に限らず、他のどんなトレーニングにおいても、「それが合目的的か?」に目を向けて、その必要性を考えましょう。

参考文献

・Aspe, R. R., & Swinton, P. A. (2014). Electromyographic and kinetic comparison of the back squat and overhead squat. The Journal of Strength & Conditioning Research, 28(10), 2827-2836.
・G.コック (2014). ムーブメント,ファンクショナルムーブメントシステム,動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー;Movement: Functional movement systems: Screening, assessment, corrective strategies.中丸宏二・小山貴之・相澤純也・新田收監訳.ナップ.
・Mark Rippetoe「体幹トレーニングの落とし穴」Athlete Body.jpフィットネス業界のウソと戦う筋トレガイド(https://athletebody.jp/2012/04/15/core-stability-training/)

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