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停滞期(プラトー)を打破するトレーニング科学

停滞期(プラトー)を打破するトレーニング科学

「トレーニングしても記録が伸びない」
「怪我してるわけでもないのに」
「以前勝っていた相手に負けてしまうようになった…」

 

どんな種目のアスリートでも、トレーニングをしていれば必ずブチ当たるのが「停滞期」です。どのレベルのアスリートであれ、長期的にパフォーマンスを高めていくためには、どうしてもこの「停滞期」を乗り越えていく必要があります。

 

ここでは、このトレーニングにおける停滞期(プラトー)を打破するためのトレーニング方法・考え方について紹介していきます。


そもそも停滞期(プラトー)ってなに?

トレーニングを続けていると、最初はぐんぐん成長度合いが感じられるものの、徐々に伸び悩みが起こり始めます。

 

トレーニングを続けているのにも関わらず、なかなか能力の向上が感じられない、記録の更新ができない…という状況が停滞期(プラトー)です。

 

停滞期(プラトー)の原因

この停滞期(プラトー)の原因には、様々なことが考えられます。

 

 

トレーニングの馴化現象

同じトレーニングを続けていくと、次第に得られるトレーニング効果が小さくなっていきます。これはトレーニングの馴化と言い、どんな体力トレーニングにもこの現象が起こります。

 

例えば週に3回100kgのスクワットを10回3セット、これを1年続けるとします。最初の半年で得られるトレーニング効果と、その後半年で得られるトレーニング効果では、後者の方がかなり小さくなってしまうということです。悪い意味でのトレーニング慣れとも言えるでしょう。停滞期を生み出す原因として、最も普遍的なものだと言えます。

 

 

 

年齢による適応能力の低下

ヒトには年齢によって様々な刺激に対する適応能力が変化します。先述のトレーニングの馴化現象と関連しますが、若い頃はトレーニングをすれば、能力がグングン伸びていくのに対し、歳を重ねると同じトレーニングをしていて能力の伸びが小さくなります。

 

特に20代後半ともなると、身体能力を向上を起こすことは容易ではなくなってきます。また、適応能力が低くなるということは、その分上手く休養や栄養を取って、トレーニング効果を引き出すことに重点を置く必要性が増すということにもなります。

 

 

その他の要因(食事、睡眠)

トレーニングの停滞期を生む原因として、その他の生活習慣が挙げられます。普段の食事や睡眠、生活リズムやストレスの高低など、様々なことが関わるものです。

 

例えば、「進学して一人暮らしを始めた」「通学に時間がかかるようになった」「練習時間帯が大きく変わった」などの変化によって生活習慣が変化し、トレーニング量に見合った食事量が確保できていなかったり、睡眠時間が極端に減っていたりすると、パフォーマンスは停滞、むしろ低下していってしまうケースは十分に考えられるでしょう。

 

トレーニングをする上で、これらに気を配るのは当たり前のことかもしれません。しかし、人によっては、これらの変化に気づけず、トレーニング量が少ないからだと、さらにトレーニングを増やして疲労を蓄積させてしまう悪循環に陥ってしまうことがあります。

停滞期(プラトー)を脱するトレーニング戦略

以上の要因を考慮して、停滞期(プラトー)を防ぐトレーニング戦略には、以下のようなものが挙げられます。

 

 

①トレーニングボリュームを操作

特に疲労感が強いわけでもなく、かと言ってトレーニングをサボっているわけでもない場合は、トレーニング強度や量を少し増やしてみましょう。同じトレーニング負荷に対するトレーニング効果は、自分の能力向上とともに小さくなっていくからです。楽になってくるとそれはもうトレーニング効果が小さくなっている証拠だとも言えます。極端な話、「慣れたらもうそれはトレーニングではない」というわけです。

 

一方で、ハードにトレーニングをこなしている実感がある、疲労感が強いなどの状況では、逆にトレーニング量を減らしてみるのが先決です。度重なるトレーニング刺激に身体の回復が追いつかず、それがパフォーマンスの向上を妨げている原因になっているかもしれないからです。

 

加えて、少しの体重増加を恐れずに、食事量をやや増やして経過を見ることも一つの手段になり得ます。一時的に身体の回復が追い付いていないのは、食事量が伴っていないことによる身体の修復の遅れ、筋肉のエネルギー基質の回復が間に合っていない場合が考えられるからです。

 

 

 

②ピリオダイゼーションの活用

特にスポーツのパフォーマンスを大きく向上させようとする際に用いられるのが、ピリオダイゼーションという考え方です。これは、そのスポーツに必要な要素を、その土台的な能力から専門的な能力まで順番に、集中してトレーニングしていくことで、効率的にトレーニングによる身体の適応効果を引き出していこうとするものです。

 

例えば、100m走で記録を高めようと思ったら、まずはその出力のエンジンとなる筋肉を大きくすること、その次に筋肉の出力(筋力)を高めること、パワー、スピード、100mを実際に走る能力…というような順番で、集中して高めていきます。それぞれの目的に合わせて、集中的なトレーニング期間を設けられるので、全て同時進行させてトレーニングしていくよりも、時間がかかるものの着実にトレーニング効果を得られると考えられます。

 

※100mのトレーニングピラミッドの例

 

 

ピリオダイゼーションを用いたトレーニング計画の関連記事

・400m走の練習・トレーニング方法

 

・400mハードル走(400mH)の練習方法

 

・100m走の練習・トレーニング方法

 

・走る・跳ぶ・投げるための練習メニュー作りの勉強部屋

 

しかし、その際には綿密なトレーニング計画を長期に渡って作る必要が出てきます。また、筋力も持久力も求められるような競技種目においては、土台作り期に「トレーニングでやるべきこと」が増え過ぎて、かえってオーバートレーニングを招いてしまう危険性も孕んでいます。

 

そのため、特に適応能力が低下しつつあるシニア期のアスリートにとっては、そのやり方に注意が必要です。

 

 

③ブロックピリオダイゼーションの活用

先述のピリオダイゼーションの考え方では、「トレーニングでやるべきこと」が増え過ぎて、かえってオーバートレーニングになってしまう危険性があることや、長期的な計画が必要なことから、トレーニングの評価修正が途中で行いづらいというデメリットがありました。

 

これを改善させようとしたのが「ブロックピリオダイゼーション」という考え方です。

 

このブロックピリオダイゼーションでは、トレーニングの適応を互いに相殺してしまい得る要素は切り離して、トレーニング残存効果の高いものから積み上げて、中期的なスパンでパフォーマンス向上を図ろうとするものです。具体的には以下の図のようなイメージです。

 

 

 

トレーニングの適応を互いに相殺ってどういうこと?

第18回「アレコレやると失敗する?トレーニング計画の工夫点」

 

干渉作用-持久トレーニングは筋トレ効果を阻害する-

 

干渉作用の原因―持久力を高めつつ筋量を上手く増やせない理由―

 

2〜4週間かけて、パフォーマンスの土台となる要素を集中して高めます。この時、筋力トレーニングと持久トレーニングなど、互いのトレーニング効果を相殺してしまい得るものは並行させずに、トレーニング目標は極力少なくしておくことが重要です。
その後2〜4週間かけて、その土台を改良、そのまた2〜4週間かけて、パフォーマンスの発揮につなげていく考え方です。

 

 

その他、トレーニングの評価・修正が行いやすいこと、年間通して高いパフォーマンスが求められる競技種目、またはそのような個人の状況に向いていることなどのメリットがあります。

 

 

④食事と停滞期

当然、食事内容はトレーニングの進捗状況を大きく左右します。特に筋肉量・筋力UPを図りたい場合は、食事によるエネルギー摂取量が少ないと、トレーニング効果がほぼ上がらないことがあります。

 

 

また、トレーニングによって酷使した組織を回復させるためにも、エネルギーが必要になります。そのためには運動によるエネルギー量以外の、基礎代謝に回せるエネルギー量をどれだけ確保できるかが重要です。これらが少ないと、トレーニングからの回復が追いつかず、結果としてトレーニングによる能力向上が頭打ちしてしまいます。

 

一方で、身体を絞る場合は、トレーニング量を増やす以外に、どうしても摂取エネルギー量を制限する必要が出てきます。その場合、トレーニングからの回復はどうしても遅れやすくなってしまいます。極端な減量はせずに、トレーニングが確実に積める状況を作り出すことを最優先にして、食事量やトレーニング内容を検討してみるべきです。

 

 

⑤睡眠と停滞期

睡眠不足はスポーツのパフォーマンスを大きく低下させます。1日の断眠が、血中アルコール濃度0.05〜0.10%のほろ酔い状態と同様の注意力低下を招くといったほどです。

 

 

また、睡眠時間を10時間に増やすだけで、バスケットボールのフリースローのシュート率やシャトルランなどのパフォーマンスが大きく改善したことや、3日間睡眠時間を8時間以上に延長するだけで持久走でのパフォーマンスの向上が見られたというデータなども存在します(Mah et al.,2011;Roberts et al.,2019)。睡眠時間を増やすだけでです。

 

加えて、睡眠時間が8時間を切ると、ケガのリスクがおよそ1.7倍になるとも言われています(Milewski et al.,2014)。怪我を防ぎ、トレーニング効果を高める、パフォーマンスを高めるためにも、睡眠時間は最低でも8時間は確保すべきです。

 

停滞期、伸び悩みを諦める前に、まずは凡事徹底。

停滞期を打破するトレーニング戦略、考え方ということで紹介してきましたが、共通して重要なことは「トレーニング量と回復度合いが釣り合っているか?」です。これは、初心者であれ、トップレベルであれトレーニングを進めていくうえで最も重視しなければいけないことであり、かつ、知らず知らずのうちに見落としてしまいがちなものです。

 

スポーツのパフォーマンスはトレーニングをするだけでは向上していきません。食事や睡眠などの、回復に関わる行動が伴ってはじめて「向上」します。「食事・睡眠・トレーニング」がすべてそろって効果が上がります。当然のことのように感じられますが、意外とこれが徹底できていないアスリートは多いように感じられます。

 

 

トレーニングで伸び悩みを感じるアスリートがまず省みるべきは、これらの基本的な生活習慣です。1日2時間のトレーニングよりも、22時間のライフスタイルの方がパフォーマンスを左右するといっても過言ではないわけです。

 

その上で、さらにパフォーマンスを高めていくとなると、発達段階や競技歴、レベルに応じてより綿密なトレーニング計画が必要になることがあります。

 

 

スポーツのパフォーマンスは「結果」です。結果には必ず原因が伴います。なので、トレーニングの伸び悩みにも必ず原因が存在しています。

 

もしトレーニングでの伸び悩みを感じるのなら、それは「今のトレーニングでの自分の伸び代は少ない」「さらなる高みを目指すなら、その他生活習慣の改善が必要」というメッセージと捉えるべきです。自分の伸び代はどこに余っているのか?を常に考え、今までの経験による固定観念に囚われず、今の自分がより成長するための方法を探っていきましょう。

参考文献

・L. P. マトヴェーエフ:魚住廣信監訳・佐藤雄亮訳(2008)ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,ナップ.
・Lehman M. J. et al.,(1997)Training and overtraining:an overview and experimental results in endurance sports.Journal of Sports Medicine and Physical Fitness,37 : 7-17.
・Issurin , V.(2008)Block periodization versus traditional theory : a review.Journal of Sports Medicine and Physical Fitness,48( 1) : 65-75.
・Coffey V.G. & Hawley J.A.(2017). Concurrent exercise training: do opposites distract?.The Journal of physiology, 595(9): 2883-2896.
・Mah et al. (2011) The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 34(7):943-50.
・Roberts SSH, Teo WP, Aisbett B, Warmington SA. Extended Sleep Maintains Endurance Performance Better than Normal or Restricted Sleep. Med Sci Sports Exerc. 2019;51(12):2516–2523.
・Milewski et al. Chronic Lack of Sleep is Associated With Increased Sports Injuries in Adolescent Athletes.Journal of Pediatric Orthopaedics. 2014, 34(2):129-133

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