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第18回「アレコレやると失敗する?トレーニング計画の工夫点」

ピリオダイゼーションの工夫点

前回の記事では、現代においてもトレーニング計画の基本理論とも言われる、マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論の問題点について紹介してきました。その問題点は以下のようにまとめられます。

 

・年に複数のピークを作りづらい
・マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論の問題点
・トレーニング計画の評価・修正を途中で行いづらい
・トレーニングの干渉作用の存在

 

 

そこで今回は、「これらの問題点を解決するために、何かトレーニング計画で工夫できることは無いの??」という話をしていきます。

ブロックピリオダイゼーション

マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論の問題点を解決するためのもう一つのトレーニング計画法として「ブロックピリオダイゼーション(Issurin,2008)」と呼ばれるものが挙げられます。これは、特にトレーニングの干渉作用を最小限にしたり、トレーニングの評価や修正を行いやすくしたものです。

 

簡単に説明すると「両立の難しいトレーニングは切り離して行い、6~12週間のトレーニングサイクルを通じて、特定の能力に絞って向上させ、パフォーマンスアップにつなげていく」考え方です。

 

図のように、「蓄積(基礎体力づくり)」「転換(培った体力を専門的体力に変換)」「現実化(パフォーマンスとして発揮)」の3つのブロックからなるトレーニング計画論です。2~4週間という好ましいトレーニング応答が望める期間を使って、ターゲットを絞って基礎体力を高め、ターゲットにしない要素はキープさせる。その段階を経て着実に能力を向上させ、パフォーマンスに転換させていくという流れです。

 

このブロックピリオダイゼーションを用いるときの注意点が「トレーニングの残存効果」を考慮することです(図)。有酸素性持久力や最大筋力などは、一旦定着するとなかなか衰えにくい要素であるとされています。なので、このような要素は「蓄積ブロック」に。無酸素性持久力や筋持久力は、短期間の残存効果があるとされるので「転換ブロック」に配置する。そして、非常に残存効果の短い最大スピードなどは、「現実化ブロック」に。というように、一気にすべてを高めようとするのではなく、残存効果に合わせて、ターゲットを絞ってトレーニングを実施していくというものです。

 

 

“蓄積(Accumulation)ブロックは有酸素性持久力や筋力など長期のトレーニングの残存効果を持つ基礎的な運動能力をトレーニングの目標とし、転換(Transmutation)ブロックは無酸素性持久力、専門的な筋持久力など短期の残存効果を持つ専門的な能力を目標とする。そして現実化(Realization)ブロックでは、最終的な目標である試合に最高のコンディションを合わせるため、残存効果の非常に短い最大スピード等を配置する。”

 

※青山亜紀(2013)トップアスリートの試合に向けた準備システムを考える―ブロック・ピリオダイゼーションとは―.陸上競技研究紀要,9:27-31.より抜粋

 

長期的な流れを示すとこんな感じになります(下図参照)。

 

 

このようにトレーニングを組むことで・・・

 

・最低限の技術・運動能力に特化してトレーニングができ、生理学的応答の矛盾、回復期間の相違などの問題が少なくなる

 

・合理的に複数のピークを作ることが可能

 

・トレーニングプログラムの評価ー修正を高頻度で行うことができる

 

などのメリットが得られることになります。

 

干渉作用を最小限に食い止める

前回の記事でも説明した通り、トレーニングを効率的に進めていくためには、「トレーニングの干渉作用」を最小限にすることが重要となります。

 

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では、この干渉作用を防ぐためには、どういった試みが必要なのでしょうか?

 

 

筋力トレーニングを持久トレーニングを同じ時期に、または同じ日に実施しない

干渉作用の中でも最も注意すべきなのが「筋力向上」と「持久力向上」のトレーニングについてです。これらを同時に進行させた場合、持久性トレーニングの強度・頻度が大きくなればなるほど、筋力の増加を制限すると言われています(Wilson et al.,2012)。できる限り、筋力・筋肉量UPを狙ったトレーニングと、持久力向上を目指したトレーニングは同じ日に行わない、もしくは同じ期間に行わないようなトレーニング計画ができると良いでしょう。

 

 

局所的なダメージが蓄積しないように留意する

例えばランニングなどで脚に局所的なダメージが多く蓄積された状態で、さらに脚へのウエイトトレーニングをガシガシと行ってしまうと、局所的なトレーニング刺激が増えすぎてしまって、結果的に筋力も持久力も向上しないということになりかねません。実際に、ランニングのような一歩一歩ブレーキをかける筋収縮は、その速度が高いほど筋肉を分解してしまうタンパク質が多く発生してしまうとも言われています(Ochi et al.,2010)。

 

そのため、できる限り局所的なオーバートレーニングを招かないように、トレーニング刺激を与える部位を分けるなどした対策が必要です。

 

 

エネルギー収支を保つ

特に持久トレーニングを多量に実施するとなると、当然多量のエネルギーを消費することになります。これによって、日々のエネルギー収支がマイナス、つまり体重が減少していくようなことになってしまえば、ウエイトトレーニングを実施してもなかなか筋肉量・筋力UPが望めなくなってしまいます。

 

先述の、急ブレーキをかけるような負荷によるダメージからの回復にも必要なことですが、高強度のスプリントや持久トレーニングをガシガシ実施しているときは、極端な減量はせずに、しっかりとエネルギー量を確保してトレーニングに励んだ方が賢明でしょう。

 

 

主として向上させたい能力のトレーニングを最大の質で行えるように計画する

主として向上させたいトレーニング要素がハッキリしていれば、まずはそのトレーニングを常に最高の状態で行えるようにトレーニングを組むようにしてみましょう。例えば、筋肉量を向上させることをメインにするなら、そのためのウエイトトレーニングをレスト明けに持ってくる、走って疲労困憊になった後に組み込まない…などです。

 

まずはそのトレーニングの強度や量を最大化できるように、他のトレーニングは維持程度で、トレーニングの共倒れを防ぐイメージです。

 

 

このように、来シーズンに大化けしてやろうと張り切って、トレーニング課題を作りすぎてしまい、結果的にトレーニングを詰め込み過ぎて、どの要素も向上させられなかった…という結果にならないような工夫はとても重要だと考えられます。

 

特に、競技歴の長い、レベルの高い選手ほど、トレーニングによる能力向上はそう簡単に起こるものではなくなってきます。

 

アレコレやろうとして、全部共倒れしてしまった…ということにならないよう、確実なトレーニング効果を求めて実践してみましょう。

 

次回からは、ここまで紹介してきた内容を基に、実際にトレーニング計画をしてみましょう。

 

次の記事

 

参考文献

・Issurin , V.(2008)Block periodization versus traditional theory : a review.Journal of Sports Medicine and Physical Fitness,48( 1) : 65-75.
・青山亜紀(2013)トップアスリートの試合に向けた準備システムを考える―ブロック・ピリオダイゼーションとは―.陸上競技研究紀要,9:27-31.
・Ochi E et al.,(2010)Elevation of myostatin and FOXOs in prolonged muscular impairment induced by eccentric contractions in rat medial gastrocnemius muscle.J Appl Physiol 108:306–313.
・WILSON J.M. et al.,(2012) CONCURRENT TRAINING: AMETA-ANALYSIS EXAMINING INTERFERENCE OF AEROBIC AND RESISTANCE EXERCISES Journal of Strength and Conditioning Research,26(8):2293-2308.

 

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