サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


第19回「実際にトレーニングを計画してみよう!(トレーニング計画例)」

実際にトレーニングを計画してみよう!

ここまで、マトヴェーエフの伝統的なピリオダイゼーションの大枠や、その問題点について紹介してきました。

 

 

そこでここからは、ここまでの知見を基に「実際にトレーニング計画(例)」をしながら、その計画上の注意点について紹介していくこととします。

トレーニング計画を立てる前提

トレーニング計画を立てる前に、まず確認しておかなければならないことがあります。それが以下の項目です。

 

・どの種目で、いつ、どれくらいの記録を目指すか?
・それは実現可能なレベルか?
・自分の種目のパフォーマンスを高めるための「一般的体力」と「専門的体力」は主に何に当たるか?
・特に自分に足りない部分はどれか?

 

どの種目でどれくらいの記録を目指すか?またそれまでの期間はどれくらいか?など、「具体的な目標設定」をしておかなければ、「具体的なトレーニング目標」を立てることができません。

 

例えば、100m走で10秒台を目指したかったら、スターティングブロックからの30m走では4秒0台、60m走では7秒切り(松尾ほか,2010より推定)(手動は0.2秒程度速い)を目指す必要があるだとかです。

 

また、その目標が自分にとって実現可能なものかどうかも見極めておく必要があります。あまりにも高い目標設定だと、逆にモチベーションが下がってしまったりするからです。12秒台から一気に9秒台を目指す!となるとそれはさすがに現実的ではありません。

 

そして、このコーナーの前半部分で触れたトレーニングピラミッドをよく確認して、自分の種目のパフォーマンスの土台に当たる能力は何か?またそれを改良して実際のパフォーマンスUPにつなげるための練習は何か?をきちんと把握しておきましょう。加えて、その中でも「特に自分に足りないもの、伸びしろが多くありそうなもの」を特定できると、次シーズンに向けた飛躍に一歩近づきます。

 

 

 

 

 

 

目的に合わせてトレーニング期間を設定しよう

以上が確認出来たら、トレーニング計画に入っていきます。

 

目的に合わせたトレーニング計画の大枠を立てるときは、紹介してきたパフォーマンスピラミッドを基に考えると便利です。図のように、土台部分から順番に積み上げていく形でトレーニング期間を設定します。

 

 

土台の根幹部分の能力は、それを強固なものに作り替えるのに比較的時間がかかるため、やや長めの期間を設けるのが一般的でしょう。その土台の改良に当たる専門的準備期は、一般的準備よりもやや短めに設定されることが多いです。この配分に関しては、選手の競技歴やレベルに合わせて調整します。

 

図は、5月に開催される県高校総体や地区インカレにピークを合わせると仮定した400m選手での計画例です。重要な試合を迎えるころには、試合でハイパフォーマンスを発揮するための万全な準備状態が出来上がっていることが必要になります。なので、ピラミッドの頂点部分に当たる「試合的なトレーニング」は、それより前に設定していなければいけません。

 

よくある間違いが、以下の図のような計画です。

 

 

ピークを持ってきた試合が始まってから、競技力に直結するようなトレーニングを開始しても、その土台の改良が未完全なまま、重要な試合に臨むことになってしまいます。これでは、さすがに仕上がりが遅れてしまいます。重要な試合が始まる前に、スポーツフォームを完成させるつもりで計画しなければいけないということです。

週単位でのトレーニング計画

どの時期にどんな目的でトレーニングするかが決まったら、次はそれに見合った週単位でのトレーニングを計画していきます。

 

※以下、400m選手の例です。あくまで例なので、そのまま真似するのではなく、自身に見合ったトレーニング量・頻度を設定するようにしましょう。

 

 

まずは、いつ何の目的でトレーニングをやるかを考えます。目的から最初に決めるのが大事です。トレーニングは目的ありきなので。「気分じゃないし、別のをやろう!」では、なかなかトレーニングの一貫性を保つことができません。あくまで目的に合致した内容であることが最優先です。

 

 

 

次に、その目的を達成するのに合理的であろうトレーニング計画を具体的に立てていきます(上図参照)。その日の目的がハッキリしていれば、どんなトレーニングをどのような設定で、どのような意識でやればよいかが明確になります。例えば、筋肥大を目的にしている時期、日では、「中重量(8~10回が目安?)の重さを数多くこなすウエイトトレーニング」が良いだろうと判断できます。一方で、筋力向上を目的にしている場合は、「高重量(3~5回が目安?)で低回数、爆発的にやる」のがよさそうだろうな…と、その日のトレーニングでの設定や、意識が明確になります。

 

走るトレーニングなら、持久力を高めるのか?スピードを高めるべきなのか?でトレーニング内容を考えることが大事です。また、基本的な持久力の土台を作ろうと思ったら、ある程度多量のトレーニング刺激が必要になるので、「1セットで出し切ってしまってもう動けない…」となるようなスピード感でトレーニングに臨んでしまうと量がこなせなくなってしまいます。すなわち、本来の目的が達成できなくなってしまうというわけです。

 

必ず、目的に合致した「重量、回数、セット数」「スピード、距離、セット数」で取り組めるようにするべきです。

 

トレーニングのボリュームの増やし方

トレーニングに慣れてきて能力の向上を感じてきたら、さらにトレーニングのボリュームを増やすことでトレーニング効果を上げることができます。負荷を徐々に増やしたり、順調にトレーニングが積めている場合は負荷を急増させることでさらなる効果につながることは、これまでの回で紹介してきた通りです。

 

 

ここで気を付けるべきは、「能力の向上が感じられないのに、トレーニングを増やそうとしてしまうこと」です。やみくもに「トレーニングを増やしていけば、強くなっていく!」と考えてしまうのは早計です。

 

トレーニングを続けながら、自身の能力向上度合いに合わせてトレーニングのボリュームを「増やしていける」ことが重要です。それを着実に続けていった結果、圧倒的なトレーニングボリュームをこなせる強い選手、飛躍へのポテンシャルを秘めた選手が出来上がるわけです。

 

いきなりトップ選手が行っているトレーニング設定を真似することは、タマゴから生まれたポケモンがいきなりチャンピオンリーグに臨むようなものです。

特定の能力に絞ったトレーニング計画

前回の記事↓で、特に競技歴が長く、レベルの高い選手では、「あらゆる競技力の基盤的能力を同時期に大きく向上させることが難しくなるから、トレーニング計画に一工夫加えるのが良いかもしれない…」と言ったことを紹介しました。

 

 

その一つの策として、筋肉量・筋力UPの期間と、持久力UPの期間を別に設定するということが挙げられます。そのトレーニング計画例を以下に示します(筋力に特化した形。あくまで例です)。

 

 

 

レジステッド走やウエイトトレーニングを中心に、それらの回復を妨げないように低強度での持久トレーニングを組み合わせた例です。メインで向上させたい能力のトレーニングからの回復を妨げないように組むのがコツだと考えられるでしょう。持久力も筋力も求めて、結果双方ともにトレーニング効果が得られなかった…となってしまうのはそう珍しいことではありません。

 

また、持久系のトレーニングと、筋力UPのトレーニングはできる限り日を分けて実施しましょう。特に強度の高い持久トレーニングは、それと同時に実施した筋力トレーニングの効果を減少させてしまうことが示唆されているからです。

 

実際に、高強度インターバルトレーニングと筋力トレーニングを並行させることは、上半身の筋力増強、筋肥大の効果に影響しないが、下半身の筋力増強の効果を低下させるといわれています(Sabag et al.,2018)。また、この下半身への干渉作用は、双方のトレーニング間隔を24時間あけることで緩和できるとされています。

「目的に合致してて」「個人に合った」トレーニング内容になっているか?を精査し続けよう

ここまで伝統的なピリオダイゼーションを基にして、トレーニング計画例について紹介してきました。しかし、何度も強調しますが、ここで紹介している計画はあくまで一例です。

 

よく、このようなトレーニング計画例を紹介すると「そっくりそのまま真似」しようとする人が続出します。それが悪いことなのかどうかは分かりません。もしかしたらその計画例がハマって、大きくパフォーマンスを向上させることに成功する人も出てくるかもしれません。しかし、多くの場合、そうとは限らないと考えられます。

 

トレーニングはその原理原則に則って、個人に見合った計画を立てることが最も重要だからです。原理原則、方向性はブラさずに、個人に合ったやり方を考えるのが重要です。それがどうしても分からなければ、あえてそのまま実践してみて、そこで感じたことを基に随時修正していくのもアリでしょう(ここでは400m走選手の具体例しか紹介していませんが)。

 

トレーニングの目的を明確に、そこに合致したトレーニング計画を立てて、あとはひたすら実践、評価、修正の繰り返しです。

 

 

次の記事

 

参照・参考文献

・L. P. マトヴェーエフ:魚住廣信監訳・佐藤雄亮訳(2008)ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,ナップ.
・マトヴェーエフ:渡邊謙監訳・魚住廣信訳(2003)スポーツ競技学.ナップ.
・松尾彰文, 広川龍太郎, 柳谷登志雄, & 杉田正明. (2010). 2009 年シーズンにおける直走路種目のスピードとストライドの分析. Bulletin of Studies, 6, 63-71.
・Sabag, A., Najafi, A., Michael, S., Esgin, T., Halaki, M., & Hackett, D. (2018). The compatibility of concurrent high intensity interval training and resistance training for muscular strength and hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. Journal of sports sciences, 36(21), 2472-2483.

サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


Youtubeはじめました(よろしければチャンネル登録お願いします)。