サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


第16回「トレーニング期分けの全体像と注意点」

トレーニングピリオダイゼーションの全体像

ここまで、短距離・跳躍・投てき選手がパフォーマンスを高めるためのトレーニング計画の話の中で「一般的準備期」「専門的準備期」「試合期」そして「移行期」をどのように過ごしていくべきかについて紹介してきました。

 

 

前回の記事

 

ここからはそのまとめとして、ピリオダイゼーション理論の全体像を俯瞰して、その細かな注意点について紹介していきます。

 

※以下、マトヴェーエフ(2003,2008)を基に解説。

ピリオダイゼーションの全体像

以下の図は、「一般的準備期」「専門的準備期」「試合期」「移行期」における、それぞれのトレーニング強度と量の推移のモデルです。

 

 

一般的準備期の一般的トレーニングは徐々に量を増やし、そこに強度を上乗せしていきながら量を減らしていく。そのあたりで専門的トレーニングの割合が増えてくる。専門的トレーニングでは、初期の段階からある程度の「強度の高さ」が重要になるということは、ここまでの記事で述べてきた通りです。

 

そして最終的に、専門的トレーニングの量を増やし、より実践に近い試合的なトレーニングを積むことで、「スポーツフォーム(ハイパフォーマンスを発揮するための万全な準備状態)」が完成していくというイメージです。

 

そして、このマトヴェーエフのピリオダイゼーション理論を把握する上で注意しなければならないことが、以下のような認識を持たないことです。

 

「冬だから一般的トレーニングを多くやる」
「試合がある時期だから専門的トレーニングをやる」
「試合がある時期だから試合期」
「みんな冬季練習中だから一般的準備期」
「暖かくなってきたから専門的準備期」

 

「??どういうこと???」と疑問を持つ人も多くいるかもしれませんが、これはつまり「私たちは時期に合わせてトレーニングをする」のではなくて「狙った試合で最高のパフォーマンスをするために、その狙った試合から逆算してトレーニング期を計画しなければならない」ということです。

 

「試合が始まったから、専門的トレーニングを積もう!」では遅いわけです。例え試合が始まっている時期であっても、自分にとって目標の試合まで期間があって、そのための準備を進めていかなければならない状態だったとしたら、その人にとってはまだその期間は「準備期」になるわけです。

 

時期や季節、周りの状況によってトレーニングを決めるのではありません。あくまでも、目標の試合から逆算して、どの時期をどう過ごすべきかを計画することが重要です。

2種類の「負荷の増やし方」

各トレーニング期間ではトレーニングの強度や量を変化させながら徐々に身体を作っていくプロセスを辿ることになります。この、強度と量を掛け算したものが、トレーニングの「負荷」と呼ばれているわけですが、当然、この負荷もトレーニングの時期によって変化させていくことが重要になります。

 

そして、この負荷の変化のさせ方には大きく2種類あるとされています。これは、「負荷増大の二面性」と呼ばれているものです。

 

 

~漸増~

負荷を徐々に増やしていくことです。これによりトレーニングの適応が促され、やがてそれが定着していきます。

 

そのおかげで、新たな大きな負荷へ移行するための土台が出来上がるといったイメージです。一般的な負荷の増やし方に当たるのはこちらのやり方でしょう。

 

 

~急増~

急激に負荷を増やすことで著しいトレーニング効果を生むことができるというものです。この急激な負荷の増加に適応するために、身体の「根本の組み換え」が進みます。

 

しかし、土台がしっかりできていない状態でこれをやると、トレーニング効果を損なってしまいます。それまでのトレーニングをしっかりと積めていることが前提です。例えば、トレーニングを始めたばかりの初心者が、いきなりハードなトレーニング合宿に参加して、連日トレーニングをこなし続けるようなことをしたら、当然オーバーワークになってしまいます。

 

一方で、長期的にトレーニングを積んできた選手が、そのような合宿に参加し、普段よりもトレーニング負荷の高い刺激を得ることは、高いパフォーマンスのための土台を強固にするために、有効な手段になり得るというわけです。

 

それぞれの選手がどのようなトレーニング状況にあるのかをきちんと見極めたうえで、トレーニングの強度・量の調整方法を考える必要があります。

 

オーバートレーニングは起こります

初心者がトレーニング負荷をいきなり増やすと、オーバーワークになってしまうという話をしましたが、本当にそうなのか?「初心者の選手でも合宿に行って、先輩たちに必死に食らいついてトレーニングをして強くなっている感じがあるし、その方が効率的なんじゃないの?」とやや納得できない人もいることでしょう。

 

しかし、たとえそのような選手であっても、やはり負荷を「急増させる」ことにはリスクがあると考えられます。これは別に初心者だけの話ではなく、普段とはかけ離れたトレーニング負荷を与えることは、一定のリスクを伴うはずです。

 

例えば、Amirthalingam et al.(2016)の研究では1RMの60~80%で「10回10セット」vs「10回5セット」で、週3回6週間トレーニングを続けた場合における効果の比較を行っています。その結果、10セット群と5セット群では筋量増加に差はなく、5セット群の方が筋力向上が顕著だった…という結果が得られました。どちらもトレーニング経験のある人を対象にしています。

 

あくまで筋力や筋肉量に関した一つの例ですが、このように、むやみに負荷を増やしても、思ったよりトレーニング効果が得られない…という場合は多く起こると考えられます。

 

身体の適応を最大限に高めるための負荷と言うのは、必ずしも強度が高くて、量が多いトレーニングのことを意味しません。「最大限の負荷」とは、人間の適応能力の範囲を越えない最大限の負荷のことです。

 

やみくもに高強度・多量のトレーニングをすれば、能力が向上するわけではないということを肝に銘じたうえで、トレーニング負荷の変更、調整を行うようにしてください。

マトヴェーエフ理論のキーポイント

前項でも少し触れましたが、トレーニング計画は「周りの季節や地域の試合の有無」によって決めるものではありません。ピリオダイゼーションというと、試合が無い時期は走り込み、スピードを落として、量を増やす、ウエイトをやる、身体を作る…そして試合が近づいたら試合形式の練習をやる…みたいなニュアンスの話をよく耳にします。

 

冬季練習でたくさん走り込んで、ウエイトして身体づくりに取り組んだけど、シーズン序盤結果が出ない…試合勘が鈍っている。ずっと試合みたいなトレーニング計画の方がいいのでは?マトヴェーエフ理論も見直さないとな~、昔の理論だし…のようなこともたまに聞きます。

 

しかし、マトヴェーエフ博士はそんなこと一切言っていません。

 

・スポーツ・フォームの厳然たる周期性があること。
・それに対応して,トレーニングの内容を変えていく必要があること。
・最高のスポーツ・フォームを作るための土台作り。土台の改良にむけて高度に集中したトレーニングが必要であること。
・土台作りと改良は一体をなしている必要があること。
・それぞれのトレーニングでの目的を達成するためには、その競技力の構造をよく理解し、適切に負荷を変動させる必要があること。
・長期的・短期的トレーニングの目的、内容はその前後の流れ、連続性を意識して設定すること(負荷の高いサイクルの後には負荷の安定したサイクルを入れるなど)。

 

これらをきちんと把握して、自身の目標に見合った計画を立てて、いつの時に何をどれくらい、どのようにやればいいかが計画できれば、不毛な議論を減らすことができると思います。

 

とは言え、このマトヴェーエフ理論にもいくつかの問題点があることも事実です。そこで次項からは、このマトヴェーエフのピリオダイゼーション理論の問題点や、その解決方法について紹介していきたいと思います。

 

次の記事

 

参考文献

・L. P. マトヴェーエフ:魚住廣信監訳・佐藤雄亮訳(2008)ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,ナップ.
・マトヴェーエフ:渡邊謙監訳・魚住廣信訳(2003)スポーツ競技学.ナップ.
・Amirthalingam, T. et al.,(2016)Effects of a Modified German Volume Training Program on Muscular Hypertrophy and Strength. Journal of Strength and Conditioning Research 31(11): 3109-3119.

サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


Youtubeはじめました(よろしければチャンネル登録お願いします)。