まず最初に言及しておくべき点があります。それは「移行期=トレーニングの中断」ではないということです。
移行期ではよく、シーズンの疲れを癒すために「1ヵ月程度トレーニングも何もしない期間を設ける、徹底的に休む」ようなことが行われることがあります。しかし、ピリオダイゼーション理論の生みの親であるマトヴェーエフ博士は、一言もそんなこと言っていません。単に何もしない期間を1ヵ月も過ごしてしまえば、あらゆる身体能力は低下してしまう一方です。
マトヴェーエフ(2003,2008)では、移行期の目的について以下のように説明しています。
・競技会の負担によるオーバートレーニングを防止する
・身体の適応能力枯渇の防止,積極的休養を取ることで適応能力を回復させる
・一定レベルのトレーニング効果は維持し、前回の同時期よりも高いレベルで一般的準備期を始める
長いシーズンを戦い抜けば、身体的にも精神的にもそれなりに負担が重なります。そんな中で、シーズンが終わった直後からハードな専門的トレーニングを多量に積もうとすれば、身体が壊れやすくなってしまうのは当然のことです。
また、同じようなトレーニングを続けていれば必ず「トレーニングの馴化現象」が起こります。これは、「悪い意味でのトレーニング慣れ」で、同じことをずっとやっていると、得られる効果が徐々に小さくなっていくというものです。トレーニングを始めた当初はぐんぐん記録の伸びを感じていたのに、それを1年も2年も続けていると、なかなか能力が伸びにくくなっていく…といった具合です。
あらゆるトレーニングを続けていると、そのトレーニングの馴化も起きやすくなってきますし、アレコレと負荷の高いトレーニングを取り入れていると、身体がなかなかそのトレーニング刺激に対応しきれなくなっていきます。身体の適応能力のキャパオーバー…というと分かりやすいでしょうか?身体の適応能力が徐々に低下していきます。
なので、これらを回復させつつ、一定のトレーニング効果は維持しながら、次の目標に向かって去年より高いレベルで新たな土台作りに入れたら良いよね…!という期間に相当するのが「移行期」です。