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第15回「移行期の過ごし方(そもそも移行期って必要なの?)」

移行期の過ごし方

前回の記事では、選手が主要な試合に出場していく期間となる「試合期」の過ごし方、および注意点について紹介してきました。

 

 

 

 

そしてここからは、トレーニング計画について考えたことがある人なら一度は聞いたことがあるであろう「移行期」について、紹介していきます。

 

 

※以下、マトヴェーエフ(2003,2008)を基に解説。

移行期とは?なんで必要なの?

まず最初に言及しておくべき点があります。それは「移行期=トレーニングの中断」ではないということです。

 

移行期ではよく、シーズンの疲れを癒すために「1ヵ月程度トレーニングも何もしない期間を設ける、徹底的に休む」ようなことが行われることがあります。しかし、ピリオダイゼーション理論の生みの親であるマトヴェーエフ博士は、一言もそんなこと言っていません。単に何もしない期間を1ヵ月も過ごしてしまえば、あらゆる身体能力は低下してしまう一方です。

 

マトヴェーエフ(2003,2008)では、移行期の目的について以下のように説明しています。

 

・競技会の負担によるオーバートレーニングを防止する

 

・身体の適応能力枯渇の防止,積極的休養を取ることで適応能力を回復させる

 

・一定レベルのトレーニング効果は維持し、前回の同時期よりも高いレベルで一般的準備期を始める

 

長いシーズンを戦い抜けば、身体的にも精神的にもそれなりに負担が重なります。そんな中で、シーズンが終わった直後からハードな専門的トレーニングを多量に積もうとすれば、身体が壊れやすくなってしまうのは当然のことです。

 

また、同じようなトレーニングを続けていれば必ず「トレーニングの馴化現象」が起こります。これは、「悪い意味でのトレーニング慣れ」で、同じことをずっとやっていると、得られる効果が徐々に小さくなっていくというものです。トレーニングを始めた当初はぐんぐん記録の伸びを感じていたのに、それを1年も2年も続けていると、なかなか能力が伸びにくくなっていく…といった具合です。

 

あらゆるトレーニングを続けていると、そのトレーニングの馴化も起きやすくなってきますし、アレコレと負荷の高いトレーニングを取り入れていると、身体がなかなかそのトレーニング刺激に対応しきれなくなっていきます。身体の適応能力のキャパオーバー…というと分かりやすいでしょうか?身体の適応能力が徐々に低下していきます。

 

なので、これらを回復させつつ、一定のトレーニング効果は維持しながら、次の目標に向かって去年より高いレベルで新たな土台作りに入れたら良いよね…!という期間に相当するのが「移行期」です。

移行期でやるべき運動

では、移行期では具体的にどんなことをやるのが良いのでしょう?

 

そのポイントが「その運動が苦役でなく、楽しくやれて、かつ多種多様な動きを含んだ運動であること。」です。例えば、登山をしたり、普段はやらない球技に取り組んだり、水泳をしたり、サイクリングに出かけたり…です。このような運動を通して心身のリラックスを図りながらも、身体を動かして、身体の色々な能力に刺激を与えてあげることが重要です。

 

また、心身のリラックス、適応能力の回復を妨げない範囲であれば、専門的な運動も取り入れて悪いことはありません。その場合は何種類かの専門的運動を数種類取り入れたりして、個々の技術的な欠点を修正する程度にしておきましょう。スタートからの飛び出しの一部分の修正に取り組んでみたり、ハードル選手ならハードリング動作のあるタイミングの動作を改善しようとドリルをやったり…になります。

 

とは言え、この段階で専門的なトレーニング効果を高いレベルで維持することは非常に困難でもあり、土台の作り替えに向けた時期として、それは現実的ではありません。そのシーズンの良い感覚にとらわれて、土台の作り替えを拒んでしまうと、来シーズンのさらに大きな飛躍への望みが薄くなってしまうからです。

移行期って本当に必要なの??

最後に「そもそも移行期って要るの?」という話についてです。

 

移行期の目的が「身体の適応能力の回復、オーバートレーニングの防止」にあるとするんなら、「そのシーズンほぼ試合に出ていない、特に心身の疲労があるわけでもない」人にとっては、必要ないのではないか?との疑問が出てくるはずです。

 

それはその通りで、移行期は必ず設けなければならないわけではありません。そこに明確な目的が無ければ、別に無理に取り入れる必要はないことは、何にしても同じことではないでしょうか?

 

それまでの準備期や試合期がかなり長く、心身の疲労感が強ければ導入すべきでしょうし、それ以外の場合は、短い疲労回復期間を入れるだけでも良いでしょう。

 

ここまで、マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論を基に、各期間の過ごし方について簡単に紹介してきました。次回からは、この基本のピリオダイゼーション理論の全体像を俯瞰して、その細かな注意点や、問題点、その他のトレーニング計画のバリエーションについて紹介していきます。

 

次の記事

 

参考文献

・L. P. マトヴェーエフ:魚住廣信監訳・佐藤雄亮訳(2008)ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,ナップ.
・マトヴェーエフ:渡邊謙監訳・魚住廣信訳(2003)スポーツ競技学.ナップ.

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