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第14回「試合期の過ごし方(ハイパフォーマンスを繰り返すには?)」

試合期の過ごし方

前回までは、スポーツのパフォーマンスを高めるための根幹ともいえる「一般的体力」や「専門的体力」を高める期間の過ごし方、注意点について紹介してきました。

 

 

そしてここからは、選手が主要な試合に出場していく期間となる「試合期」の過ごし方、および注意点について紹介していきます。

 

 

※以下、マトヴェーエフ(2003,2008)を基に解説。

試合期の目的

試合期では、

 

主要な試合に出場する全期間にわたって、スポーツフォーム(試合で最高のパフォーマンスが発揮できるための心身の準備状態)を維持、そして最大限にするための条件を整えること。

 

が、目的になります。これを達成できるようにするためには、例えば、目標のレースに向けた具体的なレースプランに準じた実践的なトレーニングを多くやるだとか、試合当日雰囲気にのまれて緊張してしまうことが無いよう、予め試合会場でトライアルをやる…などといった心理的な準備、戦術の最適化が必要です。

 

もちろんそれまでの準備期間で最高のパフォーマンスを発揮できるための土台がしっかりと作れていることが前提ですが、そこに加えてメンタルや戦術要素を最適化させることで、極限まで、その選手のパフォーマンスを高めることができます。一方で、逆にこのメンタル面や戦術面の最適化が上手くいかないことによって、高いパフォーマンスが発揮できなくなってしまうことが良く起きます。

 

このように、心理面や戦術面の最適化は、高いパフォーマンスのために必須とも言える反面、その変動が激しく、失敗すればパフォーマンスに大きな悪影響を与えてしまうことにつながりかねないものであると言えます。

 

 

また、この試合期では、それまで築いてきた「一般的体力」や「専門的体力」の土台を、根本的に作り替えることはできないとされています。土台を作り替えるようなトレーニングを行うこと、それはつまり一旦積み上げた土台を崩して、それに特化したトレーニングを集中的に行わざるを得ないからです。重要な試合が続くこの時期に、土台の根本的な作り直しを行うことは、現実的ではありません(次の試合までの期間が非常に長い場合を除く)。

 

とは言え、この試合期で「試合への調整」ばかりをやっていては、トレーニング量が不足しがちになり、結果としてこれまで培ってきた「専門的体力」や「一般的体力」が、徐々に失われていきがちです。したがって、この試合期では、試合への調整を行いつつ「専門的トレーニング効果も獲得」し、「一般的トレーニング効果も保っていく」試みが必要になります。

 

具体的には、試合が続く時期であっても、専門的トレーニングを十分に行える時期を作ったり、土台の筋肉量や筋力を維持向上させるため、シーズン中であっても高強度のウエイトトレーニングを組み込んだり…です。

試合経験は選手がさらに向上していくために極めて重要

試合期において、戦術やメンタルの最適化は、スポーツフォームをさらに仕上げていくために重要だと説明してきました。

 

ここでのメンタルの最適化は「試合への心構えを固めること、心身の能力を最大限に発揮できるようにすること、競技会中の情動をコントロールできるようにすること、満足いく結果が出せなかった時、失敗を正しく受け止め、やる気を失わないようにする」などの役割があります。

 

また、試合の雰囲気、状況というのは、普段のトレーニングと同じことをやるにしても、その負担はかなり大きくなると考えられます。試合では、心身のポテンシャルを最大限に発揮するよう迫られるので、通常のトレーニングでは不可能なことが多いからです。

 

したがって、試合は、運動能力や技術を向上させ、経験を積み、専門的な持久力や精神的なしぶとさを養う上で重要な役割を果たすと考えられるでしょう。スポーツフォームがしっかり獲得できている場合、実際の試合は、その選手がさらに向上していくために最重要ともいえる手段になります。

 

パフォーマンスの土台がしっかりとできている選手にとっては、試合が最高のトレーニングになるというわけです。

 

どれくらいの試合に出るべき?

準備期でトレーニングをしっかり積むことができた人にとって、試合が最高のトレーニングになる!と言っても、試合に出れば出るほど効果が上がるというわけではありません。何にしてもですが、適量というものはあります。

 

どれくらい試合に出るべきかは、「選手がどれくらい準備を積んできたか、連戦に対する耐久力(メンタル含めた)をどれくらい持っているか」によります。そもそもトレーニングがしっかり積めていない人はパフォーマンスの向上が頭打ちしやすいでしょう。また、試合というのは毎回高い集中力を要します。肉体的にも精神的にも大きな負担を強いることになるので、タフさが無ければすぐに疲弊してしまうだけです。

 

また、その種目の特性はどのようなものかにもよるでしょう。例えば、極限までの持久力が求められるマラソンや、一回の試合での種目数が非常に多い混成競技等は、当然高頻度出場することは困難です。

 

いずれにしても、さらなる向上のためには相当な数の試合をこなす必要がありますが、これに関しては個人の性格や種目、それまでの準備状態を加味して調整するしかありません。

 

 

次回は、土台を作り替えてさらに高いパフォーマンスを目指すための最初の一歩ともいえる、「移行期」について紹介します。

 

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参考文献

・L. P. マトヴェーエフ:魚住廣信監訳・佐藤雄亮訳(2008)ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,ナップ.
・マトヴェーエフ:渡邊謙監訳・魚住廣信訳(2003)スポーツ競技学.ナップ.

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