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腸腰筋と同じくらい、大腿直筋も鍛えるべし

腸腰筋の重要性

速く走るために重要な筋肉としてよく言われるのが「腸腰筋」。腸腰筋は、大腰筋と腸骨筋の総称で、走るときに、後ろに流れる脚にブレーキをかけて、前に引き出す役割があります。

 

そして、速く走れば走るほど、相対的に脚が後ろに流れていくスピードが高くなり、その脚に強いブレーキ力を発揮して前に引き戻さないといけなくなります。

 

なので、太くて強い腸腰筋は、スプリントパフォーマンスに強く関係すると言われており(Sugisaki et al.,2018;久野ほか,2001)、トレーニング現場でも重視される筋肉だと言えるでしょう。

 

 

大腿直筋も同じくらい重要

さて、この腸腰筋と同様に、腿を前に引き出す役割を担う筋肉があります。それが「大腿直筋」です(上図参照)。

 

大腿直筋は大腿四頭筋を構成する筋肉の一つで、股関節を曲げる働きがあるとともに、膝を伸ばす働きもある、二関節筋です。

 

この大腿直筋も後ろに流れる脚にブレーキをかけて、前に引き出す役割があり、Ema et al(2018a)の研究では、スプリントパフォーマンスと有意な相関関係が得られています。

 

 

(この研究では、疾走速度測定地点が35m付近だったためか、大腰筋とスプリントパフォーマンスの強い関係性はみられませんでした。身体が直立してくると腸腰筋の緊張が高まり、この機能が促されると考えられる(Dorn et al.,2012)ことから、この地点での疾走速度とは有意な関係性が見いだせなかったのかもしれません。)

 

また、エリートスプリンターでは非スプリンターより大腿直筋のサイズが40%も大きかったとする報告(Handsfield et al.,2017)もあり、スプリントにおけるその重要性がさらに伺えます。

大腿直筋の機能

では、なぜ大腿直筋とスプリントパフォーマンスに、このような関係がみられるのでしょうか?それは、腸腰筋とは少し異なる、大腿直筋の機能が関係しているかもしれません。

 

というのが、腸腰筋は、後ろに流れる脚にブレーキをかけ、前に引き出そうとするときに活発に働きますが、次の接地に向かって発揮する力が小さくなっていきます。これは、筋肉は収縮するスピードが高くなると、力が発揮しにくくなる「力―速度」関係によるものです。

 

一方で、大腿直筋は次の接地に向かって、腸腰筋とは対照的に発揮する力が増大していきます(Dorn et al.,2012)。

 

これは、腿を前に引き出す時に膝の屈曲を伴うため、二関節筋である大腿直筋が引き伸ばされ、大腿直筋の収縮スピードがあまり上がらないためだと考えられます。

 

したがって、接地に向かって腿を前に加速させ続けるために、大腿直筋が大きく貢献している可能性が高いというわけです。

 

 

実際に、Ema et al.(2018a)の研究でも、スイング期の股関節屈曲モーメントのピーク値や、股関節屈曲角力積と、大腿直筋のサイズとに有意な正の相関関係がみられています。

 

このように接地の瞬間に遊脚を素早く加速させ続けることは、接地での鉛直地面反力を高めたり(豊嶋と桜井,2019)、次の接地に向かって脚を振り下ろす余裕ができるなど、最大スピードを高めるためにも合理的な能力だと考えられます。

 

この大腿直筋の機能をフルに生かせるようになれば、結果的に腿が一発で高く上がるようなスプリントフォームに近づくかもしれませんね。

 

したがって、なんだか腸腰筋ばかりに目が行ってしまう人は多いようですが、この大腿直筋をトレーニングして筋肉量を増やし、筋力を高めておくことは、スプリントパフォーマンスを改善させるために有益だと判断できるわけです。

大腿直筋の鍛え方

「腿の前の筋肉はブレーキをかけるから、太くない方がいい」とささやかれることは良くあります。

 

確かに、大腿四頭筋全体の過剰な肥大は、スプリントに不利になる可能性が示唆されています(Sugisaki et al.,2018)。

 

しかし、前述の通り、大腿直筋の肥大が関係する腿の前の近位部では、太くて悪いことは無いと考えられます。

 

~有効であろうトレーニング~

・膝を伸ばした股関節屈曲トレーニング

 

・股関節を伸ばした膝伸展トレーニング

 

トレーニング中の活動具合は、股関節屈曲トレーニングの方が高いとされますが、筋肥大による効果は、膝伸展トレーニングでも同程度みられたとされています(Ema et al.,2018b)。

 

目的の筋肉に過負荷が与えられる方法なら、だいたい良いと思います。

 

重りを巻くなどして、負荷が足せたら良いと思います。

 

 

参考文献

・Sugisaki N, Kobayashi K, Tsuchie H, Kanehisa H. Associations between individual lower limb muscle volumes and 100-m sprint time in male sprinters. Int J Sports Physiol Perform. 2018;13(2): 214–9.
・久野譜也, 金俊東, & 衣笠竜太. (2001). 体幹深部筋である大腰筋と疾走能力との関係 (特集 スポーツにおける体幹の働き). 体育の科学, 51(6), 428-432.
・Ema, R., Sakaguchi, M., & Kawakami, Y. (2018a). Thigh and psoas major muscularity and its relation to running mechanics in sprinters. Medicine & Science in Sports & Exercise, 50(10), 2085-2091.
・Dorn, T. W., Schache, A. G., & Pandy, M. G. (2012). Muscular strategy shift in human running: dependence of running speed on hip and ankle muscle performance. Journal of Experimental Biology, 215(11), 1944-1956.
・Handsfield GG, Knaus KR, Fiorentino NM, Meyer CH, Hart JM, Blemker SS. Adding muscle where you need it: non-uniform hypertrophy patterns in elite sprinters. Scand J Med Sci Sports. 2017;27(10):1050–60.
・豊嶋陵司, & 桜井伸二. (2019). 短距離走の最大速度局面における滞空比と上肢および回復脚の相対鉛直加速力との関係. 体育学研究, 17126.
・Ema R, Saito I, Akagi R. Neuromuscular adaptations induced by adjacent joint training. Scand J Med Sci Sports. 2018b;28(3):947–60.

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