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スポーツ科学に基づいたクラウチングスタートのガイドライン(正しいブロックの配置、構え方とは?)

スポーツ科学に基づいたクラウチングスタートのガイドライン(正しいブロックの配置、構え方とは?)

スターティングブロックからの加速力の重要性

 

陸上競技の短距離走において、速いスタートダッシュを切るためには、スターティングブロックを上手く使う必要があります。このスターティングブロックは、クラウチングスタート時に、前足と後足を支える役割があり、スプリンターはこのスターティングブロックを押すことによって推進力を得ることができます。

 

 

当然、陸上競技の短距離走は100分の1秒を争う競技であるため、スタートダッシュの善し悪しは、パフォーマンスに大きく関わります。スタートの数メートルで出遅れてしまうと、精神的にも余裕がなくなり、終盤まで力んだ走りになってしまうというケースもしばしばみられることでしょう。

 

 

参考動画(世界トップスプリンターのスタートダッシュ)

 

 

また、世界トップクラスのスプリンターでは、前足がブロックを離れる瞬間までに、トップスピードの3分の1のスピードに達することができ、スタートでのパフォーマンスが高いほど、100m全体のタイムも速いという強い関係性があります(Bezodisほか,2015)。

 

 

そのため、このスターティングブロックを用いたスタートダッシュは、短距離走のパフォーマンスを高めるうえで、重要視すべき技術の一つであるとみなすことができます。

 

 

 

良く用いられるブロックの配置方法

スターティングブロックの前ブロック、後ブロックは移動させることが可能なため、選手がスタートを切りやすいように配置を変えることができます。このスターティングブロックの配置スタイルには、一般的に以下の3通りの方法が知られています。

 

 

 

ミディアムスタート

前ブロックと後ブロックの間隔を中程度に設置し、スタートをする方法です。一般的に初心者に勧められる配置の方法です。

 

 

エロンゲーテッドスタート

前後ブロックの間隔を大きくとる配置方法です。前ブロックを長くプッシュすることになるため、筋力が高い選手向けだとよく言われます。

 

 

バンチスタート

前後ブロックの間隔を狭めて構える方法です。セットで腰を高く上げ、前に倒れる力を利用しながらスタートを切ることになるため、筋力の低い女子選手などに勧められる場合が多いのではないでしょうか?

 

 

このように、個人の特徴によって、一般的に推奨されるスタート方法というのは、いくつか存在しています。しかし、筋力が無ければバンチスタートが良いのか?筋力が高ければエロンゲーテッドスタートが本当に良いのか?…などと、このようなスタートダッシュ方法が本当に有効なのかどうかについて、明確な科学的根拠は存在していません。

 

当然、筋力の高低のみならず、脚や胴体、腕の長さなどの体格、パフォーマンスのレベル、発達段階、性別など、あらゆる要因次第で、最適なブロックの配置やセットの姿勢は変わってくるはずです。

 

では、その最適なブロックの配置や姿勢、クリアランスからの加速方法を探る上で、何を手掛かりにしたらよいのでしょうか?

 

そのヒントとなる知見が、次に紹介する研究論文です。

 

 

 

スタートダッシュに関する最新レビュー論文

2019年6月、スウォンジー大学のBezodisらによって、陸上競技のスタートダッシュに関する数多くの研究論文をまとめたレビュー論文が発表されました。このレビューでは、スターティングブロックのクリアランスから1歩目までで、より高い水平速度をより短い時間で獲得するためのブロックの配置や姿勢、動作や力発揮の特徴についてまとめられています。ここで紹介されている主な知見を以下にまとめます。

 

 

特に理由が無ければ「中程度のブロック間隔(ミディアム)」推奨

前後のブロック間隔を広げると、前足がブロックから離れる瞬間の速度を高めることができますが、ブロックを押している時間が長くなってしまい、スタートがワンテンポ遅れてしまうことが考えられます。

 

実際に、ブロックの間隔が広いエロンゲーテッドスタート(ブロック間隔:0.548m)は、ブロックから離れる瞬間の速度は高いものの、バンチスタート(ブロック間隔:0.215m)、ミディアムスタート(ブロック間隔:0.368m)よりも、5~10mまでのタイムが遅くなってしまうと言うことが報告されています(Slawinskiほか,2012)。

 

また、バンチスタートでは両足の股関節で、力を発揮しにくくなってしまうという特徴もみられるようです。

 

以上のことから、過度に長い時間を費やすことなく、比較的大きな力を生み出すことができるため、基本的にはミディアムスタートが推奨されるということです。

 

しかし、選手の体格やセット時の構え方など、他にも考慮すべき要因も多いです。したがって、一概にすべてのスプリンターはミディアムスタートを採用すべきである!と言い切ることはできません。

 

 

 

後ブロックのプッシュを疎かにしない

スタート時のプッシュにより、後ブロックよりも前ブロックには多くの力が伝わります。これは、後ブロックよりも前ブロックの方が、プッシュしている時間が長いからです。

 

一方で、プッシュ時間は短いものの、スタート時により大きな力(力の最大値)が加えられているのは後ブロックになります。そして、短い時間でより高い速度を得るブロッククリアランスには、この後ブロックへの力の大きさが最も良く関係しているようです。また、ブロッククリアランスの総時間に占める、後ブロックのプッシュ時間の多さも然りで、パフォーマンスの高い選手にみられる明らかな特徴として紹介されています。

 

これには後ろ股関節の伸展を大きくすることや、後ろブロックの膝伸展を早期に実施することが重要になり得るとのことです。

 

 

 

1歩目までの滞空時間を短く、1歩目の接地時間は長く

ブロッククリアランス直後の1歩目までの滞空時間を短く、1歩目を長くプッシュすることで、短時間のうちにより大きな推進力を生むことができると考えられます。スタート直後において、滞空時間中は地面に力を加えることができないため、その時間が長くなってしまうと加速力を生み出せない時間も長くなってしまうわけです。

 

また、トップスピード局面では接地時間の短さが大切だとよく言われることがありますが、スタート直後では、推進力をより多く生み出すことが重要になると考えられ、長い接地時間が高いパフォーマンスと関連しています。

 

実際に、ダイヤモンドリーグに出場するトップスプリンターの最初の1歩目の接地時間の平均は男子で0.210秒、女子で0.225秒だったのに対し、低レベルのスプリンターでは男子で0.176秒、女子で0.166秒だったと報告されています(Ciacciほか,2017)。

 

このように、最初の1歩目までの滞空時間を短く、1歩目の接地時間が長いことは、レベルの高いスプリンターによくみられることで、より速いスタートを達成するために重要な視点であると考えられます。

 

しかし、1歩目までの滞空時間が短いからと言って、1歩目までのストライドを小さくしてすぐに接地に向かえば良いわけではないこと、そして単に1歩目の接地時間を長くすればよいわけではないことに注意が必要です。

 

 

 

1歩目の接地初期で、足関節で大きな力を発揮(硬くて潰れにくい足首)

1歩目の推進力に最も大きく関わると考えられるのが、足関節で発揮できるパワーです。足関節は接地の衝撃をバネのように吸収して、蹴り出しに向けてその吸収したエネルギーを放出することが知られており、1歩目の支持期には、吸収したエネルギーの4倍近いエネルギーを生み出すとも言われています。

 

また、スタート直後では、身体重心よりも後ろ側に足を接地するため、足関節での力発揮はそのまま身体を進めるためのエネルギーになります。そのため、1歩目支持期においては、足関節が、推進力を生み出す1番の貢献者であるともいえるわけです。

 

そして、ここでその足首をより硬くでき、より潰れにくい状態にできることは、1歩目の推進パワーを高めるために非常に重要だと言われています。実際に、世界のトップスプリンターのスタートダッシュを見てみると、1歩目の足首ががっちりと固定されている光景が確認できます。

 

 

参考動画(C.コールマン:ブロッククリアランス)

 

 

 

 

上記を達成し得るブロックの配置、セットポジション、クリアランス、1歩目の動作、それに関連するトレーニングを模索することが大切

ここまで紹介してきた情報は「スタートからの1歩目までで、高いパフォーマンスを発揮できている選手の特徴」がほとんどです。

 

後ろ足で良くプッシュできていて、1歩目までの滞空時間が短くて、1歩目の接地時間が長いからと言って、「じゃあどうすればそれが達成できるのか?」については、教えてくれません。あくまで、速い人はそうなっているから、「最終的に目指す目的地があるとするならば、その動きや力発揮だよね」と言うことしかわかりません。

 

したがって、その目的地に向かう方法は、選手やコーチ各々で模索するしかないわけで、簡単にスタートが上手くなって、足が速くなって…と、ことがそう簡単に進むことはありません。

 

とはいえ、良いとされる動作や力発揮の目的地が分かっているのと、そうでないのとでは、より効率的なトレーニングを選び、技術の習得を進めていく上で、大きな差が生まれます。良く分からず、勘でまったく違う方向に進むようなトレーニングをしてしまえば、それは大きな遠回りとなってしまうからです。

 

アスリートがアスリートでいられる時間は限られています。その限られた時間の中で、パフォーマンスを最大限に高めるためには、やはり無駄な遠回りはできるだけ避けていきたいものです。

 

 

関連記事

・陸上競技のバイオメカニクスとは?(スポーツバイオメカニクスの正しい解釈)

 

 

 

ブロッククリアランスからの加速に関するガイドライン

最後に、「ここまで読み進めてみたけど、なんだか難しい。結局何をしたらいいの?」と感じてしまった人向けに、ここまで紹介してきた文献を基に筆者が作成した「スタートに関するガイドライン」を紹介します。

 

 

~ブロッククリアランスが上手くなるためのポイント~

・特に理由がなければ「ミディアムスタート」

 

・後ブロックをしっかり押そう

 

・1歩目までを早く、そして低い姿勢でグッと踏もう

 

・「硬い足首」を作ろう

 

 

 

 

 

後ブロックをしっかり押そう

ブロックの配置を考えたり、スタートの練習をするうえで「後ブロックを押すことをおろそかにすべきではありません」。後ブロックをしっかりと押せるような配置や姿勢に目を向けて、試行錯誤をしてみましょう。

 

特に理由が無ければ「ミディアムスタート」がおすすめです。ブロックの前後幅をシューズ1足と3分の1程度にして、無理のない姿勢を取りましょう。このとき、セットの構え時には前後のブロックに均等に体重がかかるようにします。

 

また、後ブロックをなんだか上手く押せないな、という人には、「前ブロックを取り外したスタート練習」が有効かもしれません。

 

 

1歩目までを早く、そして低い姿勢でグッと踏もう

1歩目まではすぐに身体を浮き上がらせるのではなく、「1歩目をいち早く踏みに行き、低い姿勢で押す」ようにしてみましょう。その際、1歩目を早く踏みに行こうとして、最初のストライドを小さくし過ぎないように注意します。

 

練習方法を挙げるとするなら、1歩目の接地位置の目安となる場所にシール等の目印を貼り、その「シールをいち早く、低い姿勢で踏みに行く」などが考えられます。低い姿勢で踏み込むことができれば、おのずと接地時間は長くなり、多くの推進力を生むことにつながり得ます。

 

しかし、低い姿勢で身体を支えるためには、低い姿勢で身体を支えられるだけの筋力が必要です。意識していきなりできるようになるものではありません。

 

ウエイトトレーニングなどで低い姿勢でも大きな力を発揮できるような筋力を高めると同時に、上記のような意識でのスタート練習をコツコツと続けていきましょう。

 

 

 

「硬い足首を作る」トレーニング

1歩目で大きな推進力を生むためには、硬いバネのような足首を作ることが重要です。この硬い足首は、トップスピードを高めるためにも非常に重要だと言われており、スタートだけに限らず、短距離走のパフォーマンスを高める上で、優先してトレーニングすべき要素だと考えられます。以下は、そのトレーニング例です。いずれも、短い接地時間で高く跳ぶことを意識すると良いでしょう。

 

 

参考動画(アンクルホップ:できるだけ膝が曲がらないようにするのが好ましい)

 

 

参考文献

・Bezodis NE, Salo AIT, Trewartha G. Relationships between lower-limb kinematics and block phase performance in a cross section of sprinters. Eur J Sport Sci. 2015;15:118–24.
・Bezodis, N. E., Willwacher, S., & Salo, A. I. T. (2019). The Biomechanics of the track and field sprint start: a narrative review. Sports Medicine, 1-20.
・Slawinski J, Dumas R, Cheze L, Ontanon G, Miller C, MazureBonnefoy A. 3D kinematic of bunched, medium and elongated sprint start. Int J Sports Med. 2012;33:555–60.
・Ciacci S, Merni F, Bartolomei S, Di Michele R. Sprint start kinematics during competition in elite and world-class male and female sprinters. J Sports Sci. 2017;35:1270–8.

 


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