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「スタートと力発揮」において、水平方向への力発揮が重要であることを述べました。
ここでは、次のことについて考えていきます。
より水平方向への力発揮ができている選手の動きとはどのようなものか?
より水平方向への力発揮を高める動作とはどのようなものか?
力を加える方向が鍵?
Morinら (2011)、篠原ら (2014)が行った研究では、スターティングブロックに加えた力に対して、水平方向の成分がどの程度であったかを指標にして分析を行っています。
「加えた力全体に対して、推進力となる水平成分はどれくらいあるか」
を、スタートにおける技術の指標としたわけです。
これをBLCと呼びます。(BLC= 水平成分の力積/全体の力積)
これが高くなればなるほど、加えた力の方向がより前に向きます。
篠原ら(2014)の研究では、ブロッククリアランス時の水平速度とBLCに有意な相関関係がみとめられています。
しかし、ブロッククリアランス時の水平速度とブロックに加えた全体の力積、鉛直方向の力積とは有意な相関関係が得られませんでした。
つまり、ブロックに加える全体の力が大きくても、加える方向によって獲得できるスピードが異なるということで、BLCはスタート時の技術的な指標の一つになり得るということになります。
では、このBLCが高い人の動きは何か特徴があるのでしょうか??
BLCとブロッククリアランス動作
スタート時の前足のつま先と身体重心を結んだ線の動きを見てみると、BLCの高い選手はより高い速度でつま先を中心にした前方への回転運動を行っている傾向があります。
これは、BLCの高い選手ほどスタート時に身体全体を前へ倒しこんでいる傾向があるということです。
また、BLCとブロッククリアランス時の姿勢に着目すると、次の特徴が示されました。
・ブロック前脚(最後まで押す方)の股関節角度が小さいほどBLCが高い
・ブロック後脚(引き出す方)の膝関節角度が大きいほどBLCが高い
・体幹角度が小さいほどBLCが高い
・身体重心高が低いほどBLCが高い
Sven (2001)ではブロッククリア時には後脚の踵は臀部に引きつけないで、地面に沿うように引き出すことの重要性が述べられています。
引き出す脚の膝を曲げ、踵を引きつけるようにすると、いわゆる「巻き込み動作」が起きることで、より上に跳ね上がるような動きを生んでしまいやすくなると考えられます。
このことから、BLCが高い人ほど、後脚の膝関節角度が大きくなっていたのでしょう。
また、股関節角度の小ささ、体幹角度の小ささ、身体重心高の低さについては、
BLCが高い選手ほど、より身体全体を前に倒し、俗に言う低い姿勢でスタートができているということでしょう。

ブロッククリア時の脚全体の角度とBLCに有意な相関関係がなかったことから、前脚全体の角度以上に体幹を前傾させて、股関節は完全に伸ばしきらないまま、より低い姿勢で水平方向への推進力を得ていたという可能性があります。

前脚と地面がなす角度をできるだけ小さくしながら、体幹も前傾させることで、さらに低い姿勢を作ることができ、水平方向への力を生み出していたということでしょう。

「倒れ込み」と「伸び上がり」
前脚のつま先と身体重心を結んだ線の動きを見てみると、線が「つま先を中心に回転する運動」と「線自体が伸びていく運動」に分けて考えられると思います。
「つま先を中心に回転する運動」が「倒れ込み」
「線自体が伸びていく運動」が「伸び上がり」
として、スタートを指導する際にしばしば使われる言葉です。
前述した通り、篠田ら(2014)の研究では、BLCが高い選手は、この「倒れ込み」の速度が高く、ブロックを押している最後のあたりではほとんど「伸び上がり」の動作は見られなかったようです。
よって、脚や体幹部も含め、身体全体を伸ばすという「伸び上がり」に対して「倒れ込み」が遅いと、ブロックに加わる力はより鉛直方向に向くため、BLCは低くなってしまうことが考えられます。
この「伸び上がり」が「倒れ込み」よりも強調されすぎてしまうと、水平方向への推進力が得られにくい可能性が出てきます。
また、BLCが低い選手では、ブロックを押す動作の開始時から伸展速度が高く、重心の移動が上向きになっているようです。

要はこの「倒れ込み」と「伸び上がり」のバランスが非常に重要で、同じキック力を持っていたとしても、このバランスの違いによって、BLCが異なる、即ち、スタートの技術に差が出ることがあるということです。
ブロッククリア動作と1歩目接地姿勢
篠原ら,(2014)では、ブロッククリアランス後、1歩目接地脚の股関節角度、体幹角度とBLCに有意な負の相関関係が認められています。
これは、より水平方向に力を加えることができていた人ほど、その後の1歩目でもより身体が前傾していたということです。
より水平方向に力を発揮するために、身体の前傾を保つことはとても重要で、すぐに起き上がってしまうとスムーズな加速は望めないことは誰もが経験していることでしょう。
また、「スタートと力発揮」で述べたように、ブロッククリア時の力発揮と、1歩目の力発揮は相反するような傾向にあるため、スタートの技術を試行錯誤するときは少なくとも1歩目までの全体を捉えた見方をすべきだと言えます。
まとめると、スタートの技術の指標としてのBLCが高い選手は、倒れ込みがやや強調されながらの伸び上がりを行い、より前傾姿勢を保ちながらの飛び出しと1歩目の接地を行っていたということになります。
では、実際にどのような意識でスタートを行うことが良いのでしょうか?
前傾しようとすれば、誰でもできるのでしょうか?
次章の「スタートと意識、構えの姿勢」に続きます。
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