スポーツ選手に必要な糖質の量はどれくらい?

スポーツ選手に必要な糖質の量はどれくらい?




スポーツ選手に必要な糖質の量はどれくらい?

 

 

糖質の重要性

 

激しいトレーニングを行うアスリートにとって、「糖質」は最も重要なエネルギー源だと言っても過言ではありません。ヒトは主に「糖質」や「脂質」を使ってエネルギーを生み出しますが、呼吸が乱れるような激しい運動を行うときには、非常に多くの糖質が利用されているからです。

 

 

この糖質は、体内で「グリコーゲン」と言う形に作り替えられて貯蔵されています。貯蔵場所は、「筋肉」「肝臓」で、その量は筋肉に1500kcal分、肝臓に500kcal分くらいだと言われています。

 

 

一方で、体重60㎏で体脂肪率15%の人の脂肪(9㎏)に蓄えられているエネルギーが約65000kcal程度です。したがって、体内に貯蔵されている糖質のエネルギー量は、脂質と比較して多くはないこと、量にかなり限りがあることになります。

 

 

ということは、高い強度で長時間運動を続けるためには、この糖質が不足していてはいけない、食事をすることできちんと補給しなければならないことが理解できるでしょう。

 

 

筋グリコーゲンが不足すると、運動継続時間が圧倒的に減る

 

では、糖質が不足することで実際どれほどパフォーマンスに差が出るのでしょうか。以下の図は、運動3日前に糖質を枯渇させるような運動をさせ、その後に「糖質制限食」「普通食」「高糖質食」を摂らせたグループの、筋グリコーゲンの濃度や持久運動の継続可能時間を示したものです。

 

 

 

※Bergström, J. et al., (1967). Diet, muscle glycogen and physical performance.より

 

 

 

このように、糖質を制限した食事だと、筋グリコーゲンが回復せず、運動継続時間は2~3分の1程度まで落ちてしまうことが分かります。

 

 

 

筋グリコーゲンを充実させると、短時間高強度のパフォーマンスも向上する

 

筋グリコーゲンがきちんと回復した状態であれば、そうでないときと比較して、高強度運動中の糖質の利用能力が高まります。それとともに、高強度運動(例えば陸上400m~10000m、競泳100m~800mなど)のパフォーマンスも多くの場合向上します。

 

 

このことは、運動中の血中乳酸値の高まり方と関連しています(Mujika,2009)。乳酸は、糖質を分解することにより作られるので、筋グリコーゲンがきちんと回復していれば、激しい運動パフォーマンスを発揮している間により多くの乳酸が作られるようになります。

 

 

したがって、高強度運動で高いパフォーマンスを発揮するためにも、グリコーゲンをきちんと貯蔵させておき、運動時により多くの糖を分解できることが重要になるわけです。

 

 

※軽い強度の運動時では、糖を温存できる能力も必要です。糖はギリギリの運動強度まで温存できる、けれど高いパワーを発揮するときにはしっかりと使うことができる能力が大切になります。

 

 

アスリートが1日に必要な糖質の量

 

一般に、トレーニングをしているアスリートの糖質の必要量は、以下のように推奨されています。

 

 

※国際オリンピック委員会(2012)より作成

 

体重60㎏の人が1日1時間ほど、中程度の運動を実施している場合、体重1㎏あたり6gの摂取が必要です。1日1440kcal分、炭水化物からエネルギーを摂取することになります。ちなみにお米お茶碗1杯(0.5合)で280kcalくらいです。

 

 

これは、炭水化物が含まれている食品の重さを言っているわけではなく、含まれている糖質の量であることに注意しましょう。お茶碗1杯で150gのご飯を食べたからと言って、糖質が150g摂れているわけではありません。150g(0.5合)のご飯で摂れる糖質は、70g程度です。

 

 

 

グリコーゲンを素早く回復させるには?

 

グリコーゲンは、激しい運動を長時間行ったりすることで大きく消耗します。もし、次のトレーニングや試合までのスパンが非常に短いと、グリコーゲンが減ったままの状態で臨まなければならなくなります。これでは高いパフォーマンスは発揮できません。

 

 

なので、グリコーゲンを大きく消耗するような運動後に、素早くグリコーゲンを回復させてあげる必要があります。そのためには、糖質の摂取のタイミングや量を考える必要があると言えます。

 

 

グリコーゲンを素早く回復させる糖質摂取のタイミング

 

グリコーゲンを素早く回復させるためには、運動直後の糖質摂取が非常に重要です。以下の図は、糖質を運動直後に摂取した時と、運動後2時間ほど経ってから摂取した場合での、グリコーゲンの回復量の違いです。

 

 

 

見ての通り、同じ量の糖質でも、運動直後に糖質を摂取した場合の方が、グリコーゲンの回復量が2倍近く高くなっています。このように、2時間ほど時間が空いてしまうだけで、グリコーゲンの回復にここまで差が出てしまうわけです。

 

 

運動中は、筋肉の細胞膜上に「GULT4」と呼ばれる糖質の運び屋さんが移動してきます。このGULT4は運動終了後もしばらく細胞膜上に居続けるので、ここで糖質を摂取することで、細胞膜内に糖質を効率よく取り込めるというわけです。

 

 

 

 

しかし、次の運動が数日後…など、比較的時間が空いている場合などは、そこまで急いで摂取せずとも、グリコーゲンの回復は追い付いてくれるようです。最も大事なのは1日全体の量であることを忘れずに。

 

 

筋グリコーゲンを最も効率よく回復させる糖質の摂取量

 

では、運動後にどれくらいの糖質を摂取すれば、グリコーゲンを効率よく回復させることができるのでしょうか?以下の図は、糖質の摂取量とグリコーゲンの合成率を示したものです(Jentjens& Jeukendrup,2003)。

 

 

※Jentjens & Jeukendrup(2003)より作成

 

 

この図から分かるように、糖質を1時間当たり1.0-1.2g/kg程度摂取すると、筋グリコーゲンの回復を最大にできるとされています。1時間当たり1.0-1.2g/kgの糖質を摂取するということは、体重60kgの人が毎時間60-72gの糖質(240-288kcal)を摂取するということです。市販のエネルギーゼリーなら、2時間で3本程度の量です。

 

 

特に、長時間激しく消耗した時などは、この量を目安にしてみましょう。

 

 

タンパク質を同時に摂ると、筋グリコーゲンの回復が早まる

 

糖質のみの摂取ではなく、タンパク質を同時に摂取することでグリコーゲンの回復を促すことができます。

 

 

糖質を摂取して血糖値が上がると、インスリンと言うホルモンが出て、そのインスリンの影響で、糖質が筋肉や肝臓に取り込まれることになります。そして、この血糖値が高い状態でタンパク質を摂取すると、そのインスリンの分泌がさらに加速すると言われています(寺田,2017)。

 

 

実際に、運動直後と2時間後に「糖質(112g)のみ」と「糖質(112g)+タンパク質(40.7g)」、「タンパク質(40.7)のみ」を摂取させて、インスリン濃度や、グリコーゲンの回復度合いを比較した結果、「糖質+タンパク質」グループがインスリン濃度が最もよく高まり、筋グリコーゲンの回復量も大きくなったことが報告されています(Zawadzkiほか,1992)。

 

 

※Zawadzkiほか(1992)より作成

 

 

したがって、筋グリコーゲンを効率よく回復させるためには、糖質のみでなく、タンパク質も同時に摂取するようにした方が良いと言えます。とはいえ、運動直後にお肉…はさすがに厳しいので、ゼリー飲料とプロテインサプリメント等を活用するのが良いでしょう。

 

 

 

 

参考文献

・Mujika, I. (2009). Tapering and peaking for optimal performance. Human Kinetics 1.
・国際オリンピック委員会(2012)Nutrition for Athletes.
・Ivy, J. L., Katz, A. L., Cutler, C. L., Sherman, W. M., & Coyle, E. F. (1988). Muscle glycogen synthesis after exercise: effect of time of carbohydrate ingestion. Journal of Applied Physiology, 64(4), 1480-1485.
・寺田新. (2017). スポーツ栄養学: 科学の基礎から 「なぜ」 にこたえる. 東京大学出版会.
・Zawadzki, K. M., Yaspelkis 3rd, B. B., & Ivy, J. L. (1992). Carbohydrate-protein complex increases the rate of muscle glycogen storage after exercise. Journal of Applied Physiology, 72(5), 1854-1859.



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