BCAAの科学(効果と用い方)


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BCAAの科学(効果と用い方)

ここ数十年で「BCAA」というサプリメントは、認知度、そして人気ともに非常に高いものとなっています。

 

 

「運動からの疲労回復に効果的!」

 

「筋肉の分解を防ぐ!」

 

「マラソンなどのレース終盤のバテ防止に!」

 

 

BCAAに関してよく聞くことと言えば、このようなものが挙げられるでしょう。これだけ聞くと、めちゃくちゃ万能なサプリメントだと捉えることができますよね。まるで某仙豆のようです。果たしてそんなサプリメントが実際に存在するのでしょうか?

 

 

ということで、ここでは「BCAA」とは一体何なのか?どのような効果を発揮するのか?どのように飲めばよいのか?について解説していきたいと思います。

 

 

 

 

「BCAA」とは何か?

必須アミノ酸と非必須アミノ酸(BCAAは筋肉に無くてはならない!)

 

「BCAA」とは「Branched Chain Amino Acid(分岐鎖アミノ酸)」の略で、具体的には、必須アミノ酸である「バリン・ロイシン・イソロイシン」という三つのアミノ酸のことを指します。

 

 

このアミノ酸は、筋肉などを作っているタンパク質が分解されたものです。ヒトは食事をとって、それを材料に体内でアミノ酸を作り出し、タンパク質を合成することで、身体作りに役立てています。しかし、アミノ酸の中には、体内で作り出せるアミノ酸と、体内で作ることができないアミノ酸があるのです。

 

 

体内で作り出せないアミノ酸は、食事から摂取するしかありません。なので、このようなアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼び、体内でも作り出せるアミノ酸を「非必須アミノ酸」と言います。

 

 

必須アミノ酸(9種類)と非必須アミノ酸(11種類)

 

 

 

そして、先ほど紹介したBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)は、筋肉を作っているタンパク質中の必須アミノ酸のうち、なんと35%を占めるのです。また、他の必須アミノ酸は肝臓で代謝されるのに対して、BCAAは筋肉で代謝され、エネルギーとして使われることもあります。

 

 

つまり、BCAAは筋肉にとって無くてはならないものであり、しかも体内で合成できないので、食事やサプリメントから摂取する必要があると言えるのです。

 

 

 

 

だがしかし、BCAA不足になることはまず無い

 

BCAAは身体にとって無くてはならないものですが、体内でBCAAが不足することはほとんどありません。

 

 

なぜなら、普段口にしている食べ物ののタンパク質に含まれている必須アミノ酸の約50%はBCAAだからです(Harperほか,1984)。食事でタンパク質を取っていれば、十分な量のBCAAを摂取していることになるのです。

 

 

「じゃあ、別にサプリメントでBCAAを摂っても意味ないじゃん?」

 

 

との疑問が浮かんでくることでしょう。しかし、意味がない…なんてことはありません。BCAAはサプリメントとして「アミノ酸の状態」で摂取することによって効果を発揮するのです。

 

 

具体的には「アミノ酸の状態」で摂取して、一時的に血中や組織内の遊離BCAAの濃度を高めると、様々な生理的効果が得られるわけです。この効果は、BCAAというすでに分解された状態で摂取するから得られるものです。普通の食事では吸収までに時間がかかるため難しいわけです。

 

 

では、このBCAAを摂取することによって、どのような生理的効果が得られるのでしょうか?

 

 

 

「BCAA」の効果

筋肉の合成を促し、分解を抑える

 

BCAAの主要な効果として、筋肉の合成を促し、分解を抑える働きがあります。

 

 

BCAAの中でも「ロイシン」は非常に同化作用(合成を促す作用)の強いアミノ酸で、このロイシンの血中、組織内のレベルが上昇することによって、筋肉の合成を促し、分解を抑制するスイッチを入れるのです(mTORという物質を活性化させることで、タンパク質の合成を促すスイッチが入り、分解も抑制する)。

 

 

なので、運動前に摂取して筋肉の分解を防いだり、運動後に摂取して筋肉の合成を促すことができると考えられています。

 

 

 

筋肉痛を防ぐ

 

運動前のBCAAの摂取は、その後の筋肉痛を抑える働きがあることも分かっています。

 

Shimomuraほか(2010)の研究では、スクワットトレーニングの15分前に5gのBCAAを摂取した群と、そうでない群で、その後の筋肉痛レベルを比較しました。その結果、BCAA摂取群では、トレーニング後数日にわたって筋肉痛の度合いが低くなっていました。

 

 

※Shimomuraほか(2010)より作成

 

 

このことから、運動前のBCAA摂取は、その後の筋肉痛も抑える働きがあると言えます。

 

 

 

糖質の代謝をサポート

 

BCAAの中の「ロイシン」と「イソロイシン」は、細胞のグルコース(糖質)の取り込みを助ける働きがあります。逆に、血中のBCAA濃度が低下した状態だと、グルコースを取り込む能力が低下してしまうようです(Kadotaほか,2012)。

 

 

激しいトレーニング後には、筋肉に蓄えられている糖質(グリコーゲン)が大きく減ってしまいます。なので、リカバリーを早めるためには糖質を摂取して、筋肉のグリコーゲンを再チャージしておく必要があります。そこでBCAAを摂取しておくと、筋肉がグルコースを取り込みやすくなり、筋グリコーゲンの回復を早められるかもしれない…というわけです。

 

 

 

 

こむら返り(つり)防止

 

肝硬変の患者を対象にした研究では、BCAAの摂取がこむら返り(いわゆる「筋肉がつる」「けいれんする」状態)を激減させたとされています(Sakoほか,2003)。なんでも、肝硬変患者では血中のBCAAやアルブミンというタンパク質の濃度が低く、これが原因でこむら返りが多く起きるようです。

 

 

健常者で、こむら返りを防ぐ効果がある!とした研究はまだないようですが、BCAAの摂取が運動中のこむら返りを防ぐ可能性は高いと考えられています(下村,2013)。

 

 

 

認知機能・心理的パフォーマンスの改善

 

「セロトニン」という物質をご存知でしょうか?セロトニンは、身体を落ち着かせ、眠りにつくために重要な働きをしています。興奮状態を落ち着かせるので、脳が「疲労を感知」する役割も担っていると言われています。

 

 

このセロトニンは、トリプトファンというアミノ酸を基に作られます。しかし、BCAAを摂取することで、トリプトファンが血管から脳に移動するのを妨げてしまうようです。

 

 

そうすると、運動をしても脳が「疲れた」と感知しにくくなり、その後の認知機能などの心理的パフォーマンスが改善することが知られています。

 

 

実際に、Portierほか(2008)の研究では、セーリング競技中にBCAAを摂取することで、その後の短期記憶に関するテスト正答率が落ちにくくなったことを示しています。

 

 

※Portierほか(2008)より作成

 

 

 

このようなことから、BCAAの摂取は、認知機能などのパフォーマンスにも影響を与えることが分かります。特に、1日に数試合行われ、かつ正しい認知・判断力が求められるようなスポーツ(球技系やチームスポーツ?)に有効なサプリメントであるかもしれません。

 

 

 

 

持久パフォーマンスの改善

 

BCAAの摂取によって、糖の取り込みがサポートされたり、心理的な疲労も軽減されること、そしてBCAA自体がエネルギーとなります。

 

 

これらに付随して、運動中に無駄に糖質を使わないように温存する能力、脂質の利用能力が高まることで、長時間の持久パフォーマンスにも効果があるとされています(Gualanoほか,2011)。

 

 

しかし、これらの効果は良くトレーニングされたアスリートではあまり見られないようです。

 

 

 

 

BCAAの悪影響とは?

 

先ほど、BCAAがセロトニンの生産を抑え「疲労を感じにくくする」ことを説明しました。しかし、疲労を感じにくくなっているだけであって、疲労の原因が取り除かれているわけではないことに注意が必要です。

 

 

そのため、日常的にBCAAを摂取し続けていると脳が休まらないので、知らず知らずのうちに疲労(神経・中枢の)が蓄積していく可能性があるとも指摘されています(Falavignaほか,2012)。

 

 

また、セロトニンが作られにくくなるということは、睡眠にも悪影響を与える可能性があります。日常的にBCAAを多く摂取するのには注意が必要です。

 

 

 

 

BCAAよりも圧倒的に大切なものとは?

 

ここまでBCAAの効果について実に色々と説明してきました。が、「BCAAは本当に摂取に値すべきサプリメントなのか?」となるとまた話が変わってきます。

 

 

これまで紹介してきたものは、「BCAAがもたらしうる効果」です。「BCAAが他の栄養素、サプリメントと比較してどれくらい効果を発揮するのか?」についてではありません。これに関する吟味も必要です。

 

 

これについて、数多くの文献を収集し、様々な栄養・サプリメントに関する現在の見解をまとめている「Examine.com」というサイトでは、以下のように述べられています。

 

 

「日常的に肉や卵などから、1日体重1㎏あたり1.0~1.5g以上のタンパク質を摂取している場合、多くの人にとって摂取する必要性は低い。」

 

 

日々十分な量のタンパク質を取っていれば、トレーニング後の筋肉の再合成などを促すために十分な量のBCAAが供給されるからというのが理由です。BCAA摂取によって一時的に血中・組織中のBCAA濃度を高めた場合の効果よりも、タンパク質量を確保することの方が効果が非常に高いケースが多いわけです。

 

 

BCAAが運動後のタンパク質の合成を促すというのは事実ではありますが、その度合いは、ホエイプロテインや必須アミノ酸すべて(EAA)を摂取した時の半分程度にしかならなかったとも言われています(Jackmanほか,2017)。BCAAの中の「ロイシン」が、タンパク質の合成を促すスイッチを入れるのは確かですが、そのタンパク質の材料となる「タンパク質の量・他のアミノ酸」が不足していては話にならないということです

 

 

すなわち、「BCAAだけ摂っていれば大丈夫!」「BCAA飲んでるから安心!」ということには絶対になりません。

 

 

あくまで、筋肉の合成やリカバリー、その他諸々の機能を改善させ得る、補助(サプリメント)であることを忘れないようにしましょう。

 

 

 

 

「BCAA」の用い方

 

BCAAは摂取後30分~1時間程度で血中濃度が高くなります。運動30分前、運動中、運動直後に5g程度摂取するのが良いと考えられます。

 

 

とはいっても筋肉をつけたり、リカバリーを促進させるためには「1日のタンパク質摂取量(体重1㎏あたり1.0~1.5g)」を確保することの方がよっぽど重要です。

 

 

それらを確保したうえで、試合やトレーニング中、そのあとの認知パフォーマンス、筋肉痛、けいれん...etcなどの効果を狙って摂取するのなら悪いものではないと言えるでしょう。

 

 

しかし、タンパク質を十分に摂取していて、かつ良くトレーニングされたアスリートである場合、これらの効果は必ずしも高くはならないという点に注意すべきです。

 

 

 

結論
「お金に余裕があれば、使ってみる価値はありそう。」

 

 

 

 

まとめ

 

・BCAAは筋肉に多く含まれ、エネルギーにもなる必須アミノ酸で、食事から摂取しなければならない必須アミノ酸である。
・しかし、普段の食事から摂れるタンパク質にBCAAは非常に多く含まれているため、BCAAが不足することはほとんどない。
・BCAAをアミノ酸という状態で摂取し、血中や組織内のBCAA濃度を高めることによって、以下の様々な効果が得られる。

 

①筋肉の合成促進・分解抑制
②筋肉痛の防止
③糖の取り込み能力の補助
④こむら返り(つり・けいれん)防止
⑤認知・判断能力などの心理パフォーマンス改善
⑥持久パフォーマンス改善

 

・日常的に摂取していると、中枢神経系の疲労が蓄積したり、睡眠にも悪影響が出る可能性がある。
・1日体重当たり1.0~1.5g程度のタンパク質が確保できていれば、BCAAによる効果はそこまで大きくはならない。

 

 

 

 

参考文献

・Harper, A. E., Miller, R., & Block, K. P. (1984). Branched-chain amino acid metabolism. Annual review of nutrition, 4(1), 409-454.
・Shimomura, Y., Inaguma, A., Watanabe, S., Yamamoto, Y., Muramatsu, Y., Bajotto, G., ... & Mawatari, K. (2010). Branched-chain amino acid supplementation before squat exercise and delayed-onset muscle soreness. International journal of sport nutrition and exercise metabolism, 20(3), 236-244.
・Kadota, Y., Kazama, S., Bajotto, G., Kitaura, Y., & Shimomura, Y. (2012). Clofibrate‐Induced Reduction of Plasma Branched‐Chain Amino Acid Concentrations Impairs Glucose Tolerance in Rats. Journal of Parenteral and Enteral Nutrition, 36(3), 337-343.
・Sako, K., Imamura, Y., Nishimata, H., Tahara, K., Kubozono, O., & Tsubouchi, H. (2003). Branched-chain amino acids supplements in the late evening decrease the frequency of muscle cramps with advanced hepatic cirrhosis. Hepatology research, 26(4), 327-329.
・下村吉治(2013) “サプリメントのほんととウソ” ,ナップ.
・Portier, H., Chatard, J. C., Filaire, E., Jaunet-Devienne, M. F., Robert, A., & Guezennec, C. Y. (2008). Effects of branched-chain amino acids supplementation on physiological and psychological performance during an offshore sailing race. European journal of applied physiology, 104(5), 787-794.
・Gualano, A. B., Bozza, T., Lopes De Campos, P., Roschel, H., Dos Santos Costa, A., Luiz Marquezi, M., ... & Herbert Lancha Junior, A. (2011). Branched-chain amino acids supplementation enhances exercise capacity and lipid oxidation during endurance exercise after muscle glycogen depletion. J Sports Med Phys Fitness, 51(1), 82-8.
・Falavigna, G., Junior, J., Rogero, M., Pires, I., Pedrosa, R., Junior, E., ... & Tirapegui, J. (2012). Effects of diets supplemented with branched-chain amino acids on the performance and fatigue mechanisms of rats submitted to prolonged physical exercise. Nutrients, 4(11), 1767-1780.
・Examine.com:Branched Chain Amino Acids.(https://examine.com/supplements/branched-chain-amino-acids/)
・Jackman SR, Witard OC, Philp A, Wallis GA, Baar K, Tipton KD. Branched-Chain Amino Acid Ingestion Stimulates Muscle Myofibrillar Protein Synthesis following Resistance Exercise in Humans. Front Physiol. 7;8:390, 2017.

 

 


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