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第24回「スポーツ選手の減量の基本と実践例」

第24回「アスリートの減量の基本」

前回の記事では、瞬発系アスリート、および持久力が必要となるアスリートがトレーニングをガシガシ積んで、筋肉量・筋力UPや持久力UPの土台を築いていくために重要な食事というのはありきたりで本当に面白くないということを紹介しました。

 

 

ここでは、おそらくたくさんの人が気になっているであろう、「減量」における食事の基本について紹介していきます。

減量時に守るべき食事のピラミッド

筋肉量・筋力を向上させて身体を作っていくためには、体重が微増している状態の中トレーニングをガシガシ積んでいけることが重要だと紹介しました。しかしながら、短距離走、跳躍では自分の体重を素早く移動させたり、浮かせたりできる能力が重要になるため、当然余分な体脂肪はパフォーマンスの制限要因となってしまいます。なので、減量をしたいわけです。

 

この減量の際、むやみやたらに食事を減らして、トレーニング量を多くしてしまうと、怪我のリスクが大きくなるとともに、せっかくつけてきた筋肉量を大きく減らしてしまうことにつながります。これでは、体重は減るけども種目でのパフォーマンスはなかなか上がっていきません。なので減量の際には「筋肉量をキープできること」「怪我なくトレーニングが継続できること」の2点を意識する必要が出てきます。

 

そこで守るべき食事のポイントをピラミッド形式で表したものが、以下の通りです。

 

 

エネルギー収支はマイナスに

減量時はエネルギー収支をマイナスにする必要があります。これができなければそもそも痩せないのは当然の話です。

 

 

タンパク質を体重1㎏あたり2g以上は確保

筋肉量を増やすためにはタンパク質の摂取を増やすのが大事だと紹介してきましたが、実は減量時の方がより多くのタンパク質を摂取する必要があります。これによって、減量時の筋肉の減少度合いを小さくすることができるからです(Longland et al.,2016)。体重1㎏当たり2g以上を目安に、摂取しましょう。

 

 

脂質は体重1㎏あたり1gを確保(オメガ3を積極的に)

例え減量時であっても脂質を完全にカットするのは好ましくありません。「脂質は太る」というイメージを持たれることが多いですが、脂質は食欲や気分状態、脂質の代謝、その他さまざまな身体の機能に関わるホルモンの分泌に影響します。これを完全カットしてしまえば、食欲が抑えられなくなったり、気分状態が悪くなってイライラしやすくなったり、体脂肪が減りづらくなってしまいます。

 

脂質の摂取の際には、魚に多く含まれるオメガ3と呼ばれる脂肪酸を意識して摂取するようにしましょう。筋量維持や気分状態の改善に効果的でありながら、多くの人にとって不足しやすい脂肪酸だからです。

 

 

 

 

ビタミンやミネラルを確保

減量中はタダでさえエネルギー量、食事量が減るわけですから、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素も不足しやすい状況になります。緑黄色野菜や乳製品を多めに取り入れながら、またはサプリメントを有効活用しながらでも、これらの微量栄養素の不足が無いように心がける必要があります。

 

減量時の注意点

減量中は、身体の組織の分解が強くなっている状態です。この状態ではなかなか筋肉量を増やすのが難しくなったり、普段と同じようにトレーニングがこなせない、回復が遅れやすいなどの状況に陥りやすくなってしまうことがあります。

 

「身体を絞らなきゃ!」と言って、食事量が減りすぎてそもそものトレーニングがこなせなくなってしまえば本末転倒です。減量はあくまで手段であって、私たちが目的とするのは種目のパフォーマンスの向上です。たとえ身体が絞れなくても専門種目の記録が伸びていけばよいはずです。そこを見誤って、「痩せることが目的」になってしまわないようにしましょう。

 

 

減量時の注意ポイント

・練習がしっかりこなせなくなる、調子が悪くなる減量はダメ
・筋肉がすごく減っちゃうような減量はダメ
・継続できず、ドカ食いに走っちゃう減量はダメ

 

また、身体能力のポテンシャルを向上させたいのであれば、まずはトレーニングをガシガシこなして体重の微増を伴いながら筋量・筋力、筋肉の持久力を向上させるのが先決です。体脂肪はいつまでも減るものではありません。ある程度絞れてしまうとそれ以上は絞ると危険、パフォーマンスの向上は頭打ちするのが目に見えています。

 

「絞らなきゃ~」と言う前に、まず圧倒的なフィジカルを。でも「たくさん太っていいんだ~、なんでも食べていいんだ~」と、暴飲暴食の正当化はしないこと。あくまで微増が大事です。自分にまず必要なのは何かを良く考えて実行してみてください。

 

減量に関する実践例

「何を食べないか?」よりも「何を食べるか?」を考えよう

必要なものを確保して、お腹いっぱいになることが長く続けるために重要です。

 

これこれがタンパク質~gで,脂質が~gで…と計算するのはめちゃくちゃ面倒。面倒だけど、最初だけでも意識を持って、どんな食品に何が多いか、何が少ないかを、アバウトでいいので把握しようと言う習慣をつけておくのは大事です。少しだけでも意識して、食べるべきものを優先的に選んで、食べる習慣をつけていくのが良いでしょう。

 

参考サイト(外部リンク)
・カロリーSlism

 

実践例①(練習後の炭水化物を減らして,朝しっかり食べよう)

トレーニング後の炭水化物を少し減らすと、筋肉の持久力にかかわるミトコンドリアが増えやすくなると言われています(Marquet et al.,2016)。また、体脂肪減にも効果的のようです。トレーニング後の食事の炭水化物をやや少なめにして、その分タンパク質やミネラルを豊富に摂取することを心がけてみましょう。

 

炭水化物は朝多めに食べて、その日の午後の練習に備えます。しかし、その日の朝にハードなトレーニングがある場合は、前日の夜にも炭水化物を普段通り摂取するのが望ましいです。

 

エネルギーが必要な時には多く摂り、必要ない時には抑えてあげる視点です。

 

 

実践例②マゴニワヤサシイを食べよう

食材選びに迷ったら「マゴニワヤサシイ」を選んでみましょう。これらを美味しく食べる、そして日々の食事で満足感を得ることが、長く続けるために重要です。

 

 

 

実践例③牛乳で割ったプロテインをトレーニング後か夕飯前に飲む

ホエイプロテインや牛乳はその後の食欲を抑える効果があるとされています。なので、トレーニング後の食べ過ぎを防ぐことにつながります。プロテイン飲むだけじゃ太らないので、安心して飲みましょう。購入時は「ホエイ」プロテインを選びましょう。

 

 

実践例④お菓子は成分表を確認しよう

「お菓子は食べていい」です。ダメなのは「お菓子、デザートが習慣化すること」です。たまに食べる分には良いですし、楽しみの一つにもなります。

 

特に「これがいい!」と言うのが無ければ、裏の成分表を確認して、脂質の少ないものを選びましょう。アイスなら「氷菓orラクトアイス」と書かれているものを。

 

 

実践例⑤どのタンパク源を摂ろうかな…を先に考える

「今日はうどん!」「今日はパスタ!」ではなくて「今日はサバ!」「今日は豚肉!」などと、タンパク質から食べるものを決める習慣をつけるとよいでしょう。

 

主食から選んでしまうと、ついつい必要なタンパク質や微量栄養素が摂れずにカロリー過多になってしまいます。

 

 

 

実践例⑥一口食べたら箸を置く

よく噛むことで、代謝が微妙に上がるのと、食べ過ぎを防ぐ効果があります。昔から言われている「よく噛んで食べましょう」はとても大事なことです。

 

※Diamond & LeBlanc (1987)より

 

実践例⑦使う食器を変える

図のように、タンパク質と汁物、サラダのお皿を大きくすることも効果的です。タンパク質量を増やしたり、食べ過ぎを防いぐとともに、食事による満足感につながります。果物はジュースではなく、できる限り丸ごといきましょう。ジュースでなければそこまで大したカロリーにはならないことがほとんどです。

 

 

 

実践例⑧肉や魚を毎食「手のひら1枚」は摂るようにする

必要なタンパク質を確保するためにも、肉や魚を「毎食手のひら1枚分」は摂取しましょう。これでおおよそタンパク質20~30g程度は確保できます。綿密な計算をするよりも分かりやすい目安になります。

 

 

実践例⑨肉の種類に気を付ける

ただ、肉の種類には要注意です。中には脂質が非常に高いものも含まれているので、以下の表を参考にしながら、メニューをチョイスしてみましょう。

 

 

 

 

 

完璧主義は挫折のもと

完璧主義は挫折のもと

やる気があることは素晴らしいことです。しかし、紹介したものを完璧に全てやろうとすると、どこかで続けられなくなることがあります。なぜなら、全て完璧にやろうとするのは、強い我慢が必要になるからです。なので、「いかに自分を我慢させないかに工夫を凝らす努力」を怠らないことが重要です。

 

「ああそういえば…」くらいの気持ちで、徐々に変えて、意識しなくてもそれができるようになる、習慣化につなげるのが理想です。「習慣化された努力は最強」と覚えておくと良いと思います。

 

 

1日の体重の増減に一喜一憂しない(それ全部水分)

たまに「昨日より1.5㎏もやせてる!やった!」と喜ぶ人がいます。しかし、1日そこらで体脂肪が数キロも落ちることなんてありえません。落ちたのはほとんど水分です。筋肉にはエネルギー源として糖質(グリコーゲン)が蓄えられていますが、そのグリコーゲンと一緒に水分も蓄えられています。

 

なので、運動でグリコーゲンを消耗すると、一時的に水分量も大きく減るので、体重が大きく減るわけです。脂肪が減ったわけではないので、糖質を摂取すればすぐに戻ります

 

1日の大幅な体重の増減にあまり意味はありません。大切なのは、長期的に見て体脂肪が減っていっているか、それに伴い体重が減っているかどうかです。1日程度の大きな変化に一喜一憂するよりも、長いスパンで現状を評価する癖を付けましょう。

 

 

 

「何を食べないか?」ではなく、「何を食べるか?」を考える

ダイエットをしていると、ついつい「食べないようにしなきゃ」という考え方に陥りがちです。しかし、そのような考え方は抑圧的で、日々の食事が楽しくなくなり、満足感が得られにくい、継続困難…ということにつながってしまいます。

 

なので減量では、「何を食べなければならないか?」と、視点を変えて生活をするべきです。減量中に必要な栄養素を十分に確保するための食材をまずはおいしく、満足いくスタイルで食べる。その生活を続けていれば、次第にジャンキーな食品への欲求は抑えられていくはずです。

筆者の経験談

ヒトは自分の経験以外をなかなか信じることができない

成功した経験があると、その成功体験にとらわれてしまうことが良くあります。

 

筆者は400mHの選手ですが、高校時代に体重を減らすために炭水化物を減らして生活し、自己ベストを大きく更新した経験がありました(今考えると怪我が治ってトレーニングがしっかりできたことの影響の方が大きかったはずでした)。

 

以来、その経験からシーズン中は「体脂肪を極限まで減らさないと、体重を落とさないと記録は出ない」という考えにとらわれて、大学1~4年はケガも多く、たまに反動でやけ食い…というような時期も長く続きました。余計身体は絞りづらくなってたような気がしたし、ストレスが大きくかかるし、何よりも自己ベストも大きくは更新できませんでした。トレーニングしてもトレーニングしても能力が向上しないんです。成長期が終わればこんなもんなのかな…トレーニング頑張っているつもりではいるのにな…と、そんな感じでダラダラと日は流れていきました。

 

その後、いろいろと勉強するようになって、体重を減らすだけがパフォーマンスを上げる手段じゃないことを認識し始めます。とは言え、当初は勉強不足過ぎて「たくさん食べて体重を増やせば筋肉が付く」「筋肉が付けば筋力が上がればパフォーマンスが上がる」と、短絡的な考えばかりしていて、ウエイトの記録だけ伸びて、体重だけ増えて、400mHの記録に全く繋がらないような期間も多かったです。

 

「痩せれば速くなるわけじゃないこと」「体重が増えれば速くなるわけじゃないこと」という本当に当たり前のようなことを、競技を始めて8年間くらい、きちんと認識できていなかったわけです。

 

当初の自分に直接会って、無理やりにでもいろんなことを説得させたい気持ちになります。しかし、当時の僕は今の僕の話を理解してくれない気がします。なぜなら、当初の自分には「そのやり方でパフォーマンスを向上させた経験がない」からです。2020年3月現在、当時より体重が10㎏重いのに、筆者のスピードも持久力も過去とは桁違いなのに。

 

 

おそらくこの記事を読んでくださっている皆様の中にも「自分の経験と違う」部分があると、不審な気分になってしまう人は必ずいるはずです。それは仕方のないことだと思います。なのできちんと、モヤモヤを残さないように、自分の経験とここに書かれている内容を擦り合わせながら、思考を深めていってほしいと思います。中途半端な解釈で、誤った認識をさせたままだと、逆にパフォーマンスに悪影響を与えてしまう可能性は十分に考えられます。自分のセンスを信じて突っ走った方が、良い結果につながる選手は必ずいますが、それで上手くいかない、どうしたらいいか分からない…という選手も多くいることでしょう。そういう人がもしいて、本記事の内容を参考にして、いつかの飛躍につなげられる人が一人でもいてくれれば幸いです。

 

 

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参考文献

・Longland et al. (2016). Higher compared with lower dietary protein during an energy deficit combined with intense exercise promotes greater lean mass gain and fat mass loss: a randomized trial. The American journal of clinical nutrition, 103(3), 738-746.
・Marquet, L. A., Brisswalter, J., Louis, J., Tiollier, E., Burke, L., Hawley, J., & Hausswirth, C. (2016). Enhanced Endurance Performance by Periodization of CHO Intake:sleep low strategy. Medicine and science in sports and exercise, 48(4), 663-672.
・Diamond P. & LeBlanc J. (1987). Role of autonomic nervous system in postprandial thermogenesis in dogs.

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