大事なのはエビデンスではなく、その人の能力が向上しているかどうか
以上のように、トレーニングでは、競技力に関連する何かしらの能力が向上していることがとても重要になります。長期間変化がない、または逆に能力の低下がみられる場合、何かを変化させなければいけません。そこで考えるべきことの1つが、トレーニングのボリュームです。このトレーニングのボリュームは、トレーニングの強度(スプリントスピードや発揮している筋力、パワーの大きさなど)と、トレーニングの量(セット数や走行距離、トレーニング頻度など)で決まります。強度が高くて量も多ければ、トレーニングのボリュームは大きくなりますが、身体への負担は大きくなります。
(※ここでいうトレーニングのボリュームは、トレーニング学で言うところの「トレーニング負荷(training load)」に相当するものです。)
なので、なんだか調子が悪いな、トレーニングを継続しているのに能力が向上しないな…と言うときは、まずトレーニングのボリュームが、自分にとって適切かどうかを吟味すべきでしょう。
ここで参考になるのが、筋トレの効果を最大にするためには週~日が良い、何回何セットが良い、ランニングの走行距離は~だとかの情報です。これらはよく言われるところの「エビデンス」です。
そういった情報を参考にするのは良いことです。しかし、最も重要なことは、自分自身や目の前の選手の能力が実際に向上していっているかどうかです。「エビデンスと言われるもの」を活用したトレーニングプログラムであるからと言って、その選手の能力が向上していないのなら、その内容は再考すべき…と言うことになるでしょう。
「私は科学的な根拠に基づいてトレーニングを計画している…」と語るのは立派なことですし、トレーニング指導者としての責務を果たす上で大切なことではありますが、やはり最も大切なことは、当のアスリートの身体能力が、実際に向上しているかどうかなはずです。
また、アスリートは一つのトレーニングだけでなく、実際にはより多くのトレーニングを行っていることがほとんどです。陸上競技の短距離選手であれば、ウエイトトレーニングをやりながら、スプリントトレーニングも行います。サッカー選手も、ゴリゴリにゲームを行いながら、ウエイトトレーニングをやるとなると結構なストレスです。当然、回復に要する時間も選手で異なります。こういったことを考慮しながら、適切なトレーニングボリュームを探っていくというのは、実際とても難しいものになります。
こんな時はトレーニングボリュームを変更しよう
トレーニングが上手くいっていない場合、それがトレーニングに問題があるとするなら、原因は大きく分けて、「トレーニング刺激が強すぎ」or「トレーニング刺激が弱すぎ」2つです。
トレーニング刺激が強すぎるときは、ハードなトレーニングを続けてきたにもかかわらず,パフォーマンスの向上が感じられない、疲労感を覚える…といったことが起こります。以前までこなせていたメニューを消化できなかったり、集中力や睡眠に悪影響が出ることが多いでしょう。トレーニングの数値(スプリントタイムやウエイトの拳上重量、ジャンプ高などなど)が悪くなることが多いです。
そういった場合には、トレーニングの強度か量を減らして、回復を促す、もしくは食事や睡眠状態の改善が求められます。
一方、トレーニング刺激が弱すぎる場合、しっかり休んだ感じがあり、疲労や怪我もない気分爽快な状態だが、パフォーマンスの向上はしていない…ような状況になります。健康を維持するためには十分な運動量かもしれませんが、パフォーマンスを向上させるなら、トレーニングの強度や量、頻度を増やす必要があると言えるでしょう。
以上のようなことは極めて当たり前のことかもしれません。しかし、最も重要なことほど、単純で面白くありません。なぜなら当たり前すぎるからです。
足りて無さそうなら増やしてみる、強すぎたら減らしてみる…と、こういう調整を日々行いながらトレーニングに励むことが重要です。自分の能力が長期間向上していないのに、惰性で日々何となくいつも通りのトレーニングをするだけ…では当然パフォーマンスの向上は望めません。