一般に、女性は男性と比較して筋肉量が少なく、体脂肪が多く、そしてあらゆる運動能力に劣るというイメージがあるのではないでしょうか?実際に、様々なスポーツの記録を見ても、女性よりも男性の方が記録が優れていることがほとんどです。
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女性の方が「持久力」に優れている
しかし、ある能力に関しては、男性よりも女性の方が優れている場合があると言われています。それが「持久力」です。持久力と言っても「最大のスピードや筋力を維持できる時間の長さ」や「最大下の一定の強度の運動を維持できる時間」など、様々ですが、特に女性に優れていると言われるのが、後者(最大下の一定の強度を維持できる持久力)です。
以下の研究は、男女に最大酸素摂取量の90%、80%という強度で、耐えられなくなるまで自転車を漕がせた時の時間の差です。このように、最大酸素摂取量の80%というやや低い強度であれば、女性の方が運動の持続時間が長くなる場合があるわけです。
なぜ、このような結果になるかというと、それは「糖質を温存して、脂肪をエネルギーに変える能力」が、女性の方で優れていると考えられるからです。
筋肉や肝臓には、「グリコーゲン」という糖質のエネルギーが蓄えられています。このグリコーゲンは、強度の高い運動時により重要なエネルギー源であるとともに、強度が低い運動時においても、無くてはならないエネルギー源です。このグリコーゲンが無くなってしまうと、たとえ最大に近いような強度の高い運動でなくとも、運動を継続できなくなってしまいます。よく見られる、マラソンの終盤に大失速してしまう現象は、このグリコーゲンのストックが切れてしまうことに関連しています。
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したがって、運動を続けるためには、このグリコーゲンをいかに温存できるかが重要になるわけです。そして、女性は男性と比較して、このグリコーゲンを温存する能力が高いと言われています。以下の左側の図にあたる研究は、最大酸素摂取量の60%の運動強度で、90分運動した後の筋グリコーゲン減少度合いの男女差を検討したものです。
このように、女性は筋グリコーゲンの減りが少ないのに対して、男性ではその減少度合いが顕著です。女性の方が、筋グリコーゲンを温存できていたということが分かります。
そしてこれは、女性の方が筋グリコーゲンを温存して、運動中に脂肪をエネルギーに変える能力が高いことに起因しています。女性は女性ホルモンの影響で、運動中に使用できる脂肪の割合が高いと言われています。逆に捉えると、男性の方では、糖をエネルギーに変える能力が高いともいえるかもしれません。爆発的な力発揮とその持続が求められる運動種目では、男性の方がより優れていることは多いでしょう。一方で、運動時間が非常に長い100㎞マラソンの世界記録を見てみると、男性は6時間13分33秒、女性は6時間33分11秒と、20分程度しか変わりません(これを大差とみるかどうかは人それぞれですが)。
このように、すべての運動能力で女性が劣っているわけではなく、運動時間、または距離が長くなればなるほど、女性の運動能力が生かされやすい場合があるわけです。
参考文献
・Froberg, K., & Pedersen, P. K. (1984). Sex differences in endurance capacity and metabolic response to prolonged, heavy exercise. European journal of applied physiology and occupational physiology, 52(4), 446-450.
・Tarnopolsky, L. J., MacDougall, J. D., Atkinson, S. A., Tarnopolsky, M. A.,& Sutton, J. R. (1990). Gender differences in substrate for endurance exercise. Journal of applied physiology, 68(1), 302-308.
・須永美歌子(2018). 女性アスリート 教科書. 主婦 友社: 矢﨑謙三, 21.