トレーニング計画をする際に最も重要なこととは何でしょうか?
それは「高いパフォーマンスは年中発揮できるものではなさそうだ」ということを理解することです。そのことを発見した偉大な研究者に「マトヴェーエフ博士」という人物がいます。
マトヴェーエフ理論とは?
昔、ソ連に「マトヴェーエフ博士」という人がいました。博士はトレーニング計画を学ぶ上での基礎ともいえる「マトヴェーエフ理論・ピリオダイゼーション理論」という考え方の生みの親でもあります。トレーニングについて勉強している人であれば、一度は耳にしたことのある言葉なのではないでしょうか?この理論は1960年代に生まれたものですが、未だに世界各国で議論の中心となっているものです。それだけ、トレーニング計画を語るうえで知っておくべき原理原則がつまった偉大な理論であると言えます。
たとえば,短距離走の某コーチが,ある少年を指導するとしよう.もしまったく労力とコスト・パフォーマンスを無視するなら,その理想的な指導は次のようになるだろう.まず,主な生物学的,生理学的,医学的,力学的等々のパラメーターを毎日,いや毎時間測定し分析していく.そして,その少年の身体的特性と発達傾向をできるだけ明らかにし,それに基づいてトレーニングの理想的な負荷と休息(インターバル)をはじき出す.そして,負荷と休息がどういう結果を生み,生物学的,生理学的,医学的パラメータなどを変化させたか,やはり毎時間記録し,負荷と休息を修正していく.一方,エクササイズも・・・以下略・・・
(ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,翻訳者より)
こんなやり方はあんまり手間ひまかかりすぎて、とてもじゃないがそこまで細かく考えていられない・・・とも考えるかもしれませんが、マトヴェーエフ博士は上のような指導を生涯探求し続け、実現、体系化してしまった。これが「マトヴェーエフ理論」です。
しかも国家の全面バックアップのもと,この理論を数十年にわたって実践し、ソ連を世界最高のスポーツ王国に育て上げた、その司令塔が「マトヴェーエフ博士」です。
高いパフォーマンスは年中発揮できない(スポーツフォームの周期性)
このマトヴェーエフ博士が発見したことの一つが「スポーツフォームの周期性」です(マトヴェーエフ,2003;2008)。
スポーツフォームとは、端的に言えば「試合で最高のパフォーマンスを発揮できる身体の準備状態」のことを指しています。このスポーツフォームは、体力や技術、戦術、心理的要因がピラミッドのように積み重なってできており、このピラミッドの頂点をどれだけ高くできるかが、試合でハイパフォーマンスを発揮できるために必要になります。
そして、約10万人余りのスポーツ選手のデータからマトヴェーエフ博士が発見したスポーツフォームの周期性が、以下の通りです(下図参照)。

このように、スポーツフォームには「形成―維持―消失」のサイクルがあり、このサイクルを繰り返しながらより高いパフォーマンス(が発揮できる準備状態)へと、進歩していることが伺えます。
すなわち「試合で最高の結果が期待できる状態というのは常に右肩上がりではないこと」「より高いレベルに達する人は一度、試合で結果が望めない状態になっている」という法則性が見出されたというわけです。
こういった事実は
「レースの記録は絶え間なく向上させることができる」
「年間通して、その競技のベストパフォーマンスを出せる状態を維持する必要がある」
という主張を否定するものです。
したがって、一度は試合で高いパフォーマンスが望めない状態になりながらも、違った時期に違ったことをやって、パフォーマンスの土台を積みなおしていく作業はどうしても必要そうだ…というわけです。

このように、合目的的に違った時期に違ったことをやって、パフォーマンスの土台を積み重ねて、改良していくトレーニングの期分けのことを「トレーニングピリオダイゼーション」と言います。