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第12回「一般的準備期の過ごし方(基礎体力を高めよう)」

一般的準備期の過ごし方

前回の記事では、効率良くパフォーマンスピラミッドを積み上げていくためには、ピラミッドの「土台作り+土台の改良+技術や戦術、メンタルの最適化」が必須であることを紹介するとともに、それぞれに応じて違った時期に違ったトレーニングをやる重要性について説明しました。

 

 

今回は、その中でも「土台作り」の時期に当たる「一般的準備期」の過ごし方について考えていきます。

一般的体力、専門的体力って何?

※以下、マトヴェーエフ(2003,2008)を基に解説。

 

一般的体力とは、いわゆるパフォーマンスピラミッドの土台部分に当たる能力のことです。短距離走で言うと、そもそもの筋肉量や最大筋力、柔軟性、調整力、持久力に関わるミトコンドリアや毛細血管の多さ…などです。パフォーマンスに直結はしませんが、パフォーマンスを底上げする基盤的な能力と言えます。

 

一方で、専門的体力とはパフォーマンスに直結し得る、競技種目そのものに近い能力です。短距離走で専門的体力を向上させる手段を挙げると、実際にレースペースでスプリントを行ったり、練習を兼ねて記録会に参加するなどになります。

 

 

この一般的体力と専門的体力をどれだけ高められるかが、最終的なパフォーマンスをほぼ決めると言っても過言ではありません。陸上競技は他の球技などのチームスポーツのように、チームや個人の戦術がパフォーマンスにそれほど大きく影響しない競技です。短距離走であればスタートラインに立った時点で、跳躍、投てきであればピットに立った時点で、おおよその勝ち負けは決まっていると言われるほどです。

 

圧倒的な体力の差を、細かな戦術で埋めることが難しいことから、鍛錬期でどれだけ一般的体力、専門的体力を積み上げられるかがシーズンの成績を左右します。

 

また、一般的体力は専門的体力と比較して、その向上に時間がかかると言われています。そのため、一般的体力の向上にはじっくりと長い時間をかけて取り組むことが必要になると考えられます(競技歴やレベルが高くなるほど、専門的トレーニングに費やす割合を長くした方が良いとも言われています。身体の適応能力が低下し、高い強度でないととれーんんぐ効果が得られにくくなる場合があるからです)。

 

ここからはまず、一般的体力を高めることに特化した「一般的準備期」の過ごし方について紹介していきます。

身体機能の全般的な向上を目指す

一般的準備期で達成すべき目標には、以下の3点が挙げられます。

 

①身体機能の全般的水準を上げる。
②身体能力を多面的に発達させる。
③運動能力を拡充する。

 

まず、パフォーマンスの土台となるそもそもの基本的な身体能力を全般的に高めることが重要です。基礎的な筋肉量や筋力、持久力だけでなく、調整力や身体の可動性などを総合的に高めていきます。

 

ここで注意すべき点は、全般的にといっても、「最終的にパフォーマンスに貢献しうる能力を向上させる。負の転移をできる限り生まないよう工夫する」ことです。

 

例えば「総合的に何でも能力を高めなきゃ!」と言って、スプリンターが握力鍛え続けてもパフォーマンスには転移しづらいのは見え見えです。逆に前腕ムキムキだと走る時重そうですし、逆に足が遅くなってしまう可能性が高いでしょう。このような負の転移が極力怒らないように、その競技種目には何が必要か、深く理解できていることは前提です。必要な要素を総合的に高めていく、または総合的に高めつつも、自身の弱点に相当する要素を重点的にトレーニングしていくことが重要です。

 

また、身体能力は多面的に向上させる工夫を凝らす必要があります。例えば、筋力トレーニングを行う際には、ある関節角度での筋力だけを鍛えるよりも、広い可動域に渡って筋力を高めるだとか、持久力を向上させるにしても、jogのような遅い持久力だけでなく、高いスピードでの持久力も・・・と言うように、一つの能力であっても色々な面から向上させることが必要です。他には、股関節を伸ばす筋力向上のために、スクワットだけでなく、デッドリフトも用いるだとか、持久力を高めるためにランニングだけでなく、水泳を用いる・・・なども考えることができます。

 

これは、たとえ同じ「筋力向上」を目的にしていても、1つのトレーニングによって得られる効果は1つだとも考えられるからです。スクワットによって得られる効果は、スクワットをやる能力向上です。デッドリフトでまず得られる効果はデッドリフトをやる能力向上です。そこで得られた効果が、色々な能力に転化していくということを考えると、同じ目的でもトレーニングの幅は広くしておいた方が、後につながる能力向上の幅も広がるというわけです。また、色々な手段でトレーニングをした方が能力向上の頭打ちを防ぐことにもつながります。

 

しかし、同じトレーニングでなければ前回のトレーニング時との比較がしづらくなり、能力向上の進捗度合いが分かりにくくなるというデメリットも考えられます。

 

一つ能力向上度合いを評価するコントロールテスト種目を設定して、その能力向上のために色々なトレーニングに取り組むようにする、同じトレーニングを定期的に取り入れて、日々能力向上度合いをチェックするような試みが必要です。

 

特にトレーニング量を増加させる

筋量などの形態的な要素や、持久力に関わる毛細血管増加、エネルギー代謝の根本的なバックグラウンドを大きく改善させるためには、多量のトレーニングを長期間にわたって行う必要があります。一回強い刺激を与えたくらいでは、能力の土台を大きく改善させることはできません。

 

そのためこの期間では強度よりも量に重点を置き、専門的準備期よりも長い期間が必要になります。

 

また、量に重点を置くと言っても、それをやみくもに増やしてはいけません。まずは「適切なトレーニング効果が得られる強度」を確保しましょう。

 

例えば筋サイズ、速筋線維の持久性を高めるためにはある程度高い強度は必要になります。量を増やそうとした挙句、ウエイトの重量を軽くしすぎたり、走るスピードを低くしすぎたりすれば、「速筋線維の能力改善」が実現できる刺激が得られにくくなってしまいます。目的のトレーニング効果が得られるであろう強度を保って、その上でトレーニング量を増やしていけることが大切です。

 

加えて、この期間の量も、いきなりやみくもに増やさないようにしましょう。量が大切と言えど、それは「自分の能力向上に伴い“増やしていけた結果”」である方が望ましいと考えられます。初心者がいきなり多量のトレーニングをこなそうとしても、それはほぼ間違いなくオーバーワークにつながります。

 

レベルの高い選手が多量のトレーニングをこなせるのは、最初からその多量のトレーニングをこなしていたからではなく、「徐々にレベルが上がってくるにつれて、こなせるボリュームが上がっていった」経緯がある…と言った方が妥当ではないでしょうか?いきなり一流選手のトレーニングに取り組むことは無謀です。

専門的トレーニングはしなくていいの?

一般的準備期では、例えば短距離で言うスターティングブロックからのダッシュや60m走、跳躍種目であれば跳躍練習などの専門的トレーニングはしなくても良いのでしょうか?

 

この一般的準備期では「専門的トレーニングは選択的に、補助的にやる」ことが重要だと言われています。レースで走る距離より短い距離だけやる、少し長めのものをやる、試合の部分練習をやるなどです。

 

この時期に専門的なトレーニングを多く導入しすぎると、前シーズンでの技術が変に固まってしまい、技術の革新がなかなか起こしづらくなってしまう可能性があるからです。「シーズン中の良いイメージ」が足枷になり、変化を起こしづらくなる…といったニュアンスです。

 

また、専門的トレーニングは運動強度が高いものが多く、これを多量組み込むと回復に時間を要し、一般的トレーニングの量を増やしていくことが難しくなってしまうことも当然考えられるでしょう。100m選手が100m走のトライアルを何十本も行おうとすれば、その回復には多くの時間を要するはずですし、パフォーマンスの土台を作る他のトレーニングに時間を割くことができなくなります。もしくは専門的トレーニングも一般的トレーニングも量を増やしすぎてしまえば、怪我やオーバートレーニングにもつながりかねません。「二兎を追う者一兎も得ず」です。

 

とは言え、一般的トレーニングだけでは十分に刺激できないけど、パフォーマンスUPには必要な体力要素も多いはずです。ウエイトトレーニングで刺激できる筋肉は、そのウエイトトレーニング種目で刺激できる筋肉だけで、走るために必要な筋肉全てを刺激するためには、やはり走ることが必要になります。

 

一般的体力を高める期間だとしても、パフォーマンスUPに必要な基盤の能力をくまなく刺激できるような工夫が、必要です。

 

次回は、パフォーマンスピラミッドのより上位部分に関わる「専門的準備期」の過ごし方について考えていきます。

 

参考文献

・L. P. マトヴェーエフ:魚住廣信監訳・佐藤雄亮訳(2008)ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論,ナップ.
・マトヴェーエフ:渡邊謙監訳・魚住廣信訳(2003)スポーツ競技学.ナップ.

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