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第27回「睡眠不足改善だけで自己記録?(陸上競技と睡眠)」

アスリートと睡眠不足

前回の記事では、陸上選手がトレーニング後のクールダウン、ケアとしてのリカバリーに用いている「アイシング」「冷水浴」「交代浴」などについて紹介しました。

 

 

ここでは、陸上競技の選手が記録を向上させるために見落としがちな「睡眠」の重要性について解説していきます。結論から言うと・・・

「睡眠不足の選手が、1日8~10時間ほど睡眠を取るようになるだけで、軒並みにパフォーマンスが改善するとともに、ケガ防止&トレーニング効果の向上で、長期的に強くなれる選手に生まれ変わる」

と言っても過言ではないほど、重要な意味を持つ、それが睡眠です。

アスリートの多くは睡眠不足である

運動習慣のある人は睡眠の質が良いとは言われるものですが、睡眠が不十分だと感じている人は多いと言われています(小田ほか,2001)。実際、アメリカの学生アスリートの50%は睡眠時間が7時間未満、79%が8時間未満、五輪選手でも49%は睡眠不足であるようです(Reardon et al.,2019)。

 

特に緊迫感が増す試合期は、特に睡眠不足になりやすく(Tuomilehto et al.,2017)、トレーニング期間中(合宿時など)、時差ボケなど、その変化し得る様々な状況下で、多くのアスリートの睡眠は足りていないと言われています。

 

睡眠不足はケガのリスクを倍増させる

睡眠が8時間を切ると、怪我のリスクが1.7倍になると言われています(Milewski et al.,2014)。

 

21か月間のケガ発生率と睡眠時間との関係を調査した研究では、睡眠時間が6時間の人は怪我の発生率が70%以上にも登るのに対して、睡眠時間が9時間の人は怪我の発生率が20%以下だったという結果が得られています。7時間でも60%越え、8時間では35%程度と、睡眠時間が短くなるにつれてケガのリスクが大きく高まるとされています。

 

つまり、怪我して大切な競技人生を無駄にしたくなければ、8時間以上は寝るべきと言えるわけです。寝ましょう。

睡眠不足で風邪の引きやすさ倍増

睡眠時間が少ない人は怪我のリスクだけでなく、風邪を引いてトレーニングを継続できなくなるリスクも倍増していると思って良いでしょう。

 

睡眠時間が6時間未満の人では、7時間より多く睡眠をとっている人と比べて、風邪を引くリスクが高くなります。5時間未満の人では7時間の人と比較してリスクが約2倍です(Prather et al.,2015)。

 

 

激しいトレーニングを積むアスリートはただでさえ免疫力が低くなりやすく、長距離ランナーでは特に上気道感染症が多いのも知られています(Williams et al.,2019)。風邪を引かずにトレーニングを継続できることは、スポーツのパフォーマンスを高めるための基本です。寝ましょう。

睡眠不足はダイエットを失敗させる

さらに、睡眠不足はダイエットをも失敗させます。睡眠不足で減量していると、筋肉量の減りが著しくなるのです。

 

K.Spiegel et al.(2004)の研究では、10時間睡眠と4時間睡眠で、それぞれ2日間過ごした後のレプチン(食欲抑制ホルモン)とグレリン(食欲増進ホルモン)の量を調査しています。その結果、4時間睡眠ではレプチンが18%低下し、グレリンが28%増加したとされており、睡眠不足だとやたら食べ物が欲しくなる理由が説明されています。

 

実際に睡眠を制限(5.5時間)して減量させた研究(Nedeltcheva et al.,2010)では、十分に睡眠をとった群(8.5時間)と比較して、体重減少に対する筋肉量の減少がかなり大きくなったと言います。

 

※Nedeltchevaほか(2010)より作成

 

したがって、余計な食欲を抑えて、パフォーマンスを向上させるための減量を成功させる上で、睡眠不足は大敵だと言えるわけです。

 

睡眠不足はリカバリーを遅延させる

さらに睡眠不足は、トレーニングからの回復を大きく妨げます。寝ないと日々のトレーニングの進度が遅れるわけです。

 

睡眠不足だとコルチゾルと言うホルモンが増え、筋肉が分解されやすい状態が長く続くと考えられます。また、筋肉の中のエネルギー源(グリコーゲン:糖質)の回復も遅れやすくなるとされています(Skein et al.,2011)。

 

トレーニング後のリカバリーが遅れ、これが長期に渡って続けば、トレーニング量が変わらないのに徐々に疲労が蓄積されていき、オーバートレーニングに陥ってしまう可能性も高まることでしょう。

睡眠時間を増やすだけでパフォーマンスが上がる?

睡眠時間が平均7.8時間のバスケットボール選手を対象に、5-7週間最低10時間の睡眠をとるようにさせ、各種パフォーマンステストの結果を比較した研究があります(Mah et al.,2011)。

 

その結果がこちらです。

・コート1往復半のスプリントタイム(16.2±0.61秒⇒15.5±0.54秒)
・フリースローの正確性9%向上
・3ポイントシュートの正確性9.2%向上
・反応時間(PVT reaction time)向上(0.31±0.77秒⇒0.27±0.42秒)

 

ただ、10時間睡眠をしていない群との比較が無く、さらには10時間睡眠介入中にもそのテストを繰り返していました。だから、本当に睡眠がこれほどのパフォーマンス向上をもたらしたかどうかは微妙なところです。

 

とはいえ、このようなパフォーマンスの向上が観察されたことは、睡眠を増やすことが想像以上にパフォーマンス向上、トレーニング効果向上、リカバリー促進に役立つという可能性が示されているということになるではないでしょうか?

 

アスリートは睡眠不足による悪影響の大きさを自覚せよ

アスリートのトレーニングにおける、合宿時の早朝練、夜練は睡眠不足を引き起こしやすいと考えられます。また、テスト期間中は睡眠時間が減りやすいのは当然の現象とも言えるでしょう。

 

そのような中でパフォーマンスを向上させていくためには、睡眠時間を確保するための工夫が重要です。

 

・昼寝の時間を組む、昼寝できる設備や工夫。
・朝の練習開始時間を考慮するなど、睡眠を妨げるトレーニング計画はしない。
・眠りやすい宿舎を選ぶ。
・睡眠に関するカウンセリングをする。
・寝る30分前からスマホの電源を切る。

 

アスリートはやコーチは、睡眠不足による影響の大きさを自覚すべきです。寝てない自慢するアスリートはアスリート失格、「私は良いパフォーマンス発揮する気がありません」と豪語してるのと同じです。

 

睡眠はタダだし、効果が高い代物です。睡眠の優先順位をもっと高めましょう。テストや実習でどうしても睡眠不足になることはありますが、「睡眠不足は思ったよりヤバみが深い」ことを知っておきましょう。

 

 

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参考文献

・小田史郎, 清野彩, & 森谷〓. (2001). 大学生における夜間睡眠と運動習慣の関連についての実態調査. 体力科学, 50(2), 245-254.
・Reardon et al. (2019). Mental health in elite athletes: International Olympic Committee consensus statement (2019). British journal of sports medicine, 53(11), 667-699.
・Tuomilehto et al. (2017). Sleep of professional athletes: underexploited potential to improve health and performance. Journal of sports sciences, 35(7), 704-710.
・Milewski et al. Chronic Lack of Sleep is Associated With Increased Sports Injuries in Adolescent Athletes.Journal of Pediatric Orthopaedics. 2014, 34(2):129-133
・Prather et al. (2015). Behaviorally assessed sleep and susceptibility to the common cold. Sleep, 38(9), 1353-1359.
・Williams et al.(2019)Immune nutrition and exercise: Narrative review and practical recommendations.European Journal of Sport Science,Volume 19, 49-61.
・K.Spiegel et al. Brief Communication: Sleep curtailment in healthy young men is assosiated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Annals of Internal Medicine, 2004, 141:846-850.
・Nedeltcheva et al. (2010). Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity. Annals of internal medicine, 153(7), 435-441.
・Skein et al. (2011). Intermittent-sprint performance and muscle glycogen after 30 h of sleep deprivation. Medicine & Science in Sports & Exercise, 43(7), 1301-1311.
・Mah et al. (2011) The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 34(7):943-50.

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