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走動作のバイオメカニクス(速く走るコツ)

「走る」と「歩く」の違いは?

「走る」と「歩く」の決定的な違いは、両脚が地面に付いている時間がない、つまり両脚支持期がないことです。

 

足が地面に接地してから、また同じ足が地面に着くまでのサイクルを「走行サイクル(走行周期)」といいます。

 

走行サイクルは足が地面に接地している立脚期と、地面に足が着いていない遊脚期に分けられます。

 

右足が地面に接地して、地面から離れるまでを右立脚期、右足が地面から離れて地面に着くまでを右遊脚期です。

 

 

そして、片足が地面に着いてから、もう片方の足が地面に着くまでに進んだ1歩の距離を「ストライド」と言い、単位時間あたりのストライド数を「ピッチ」と言います。

 

走る速さ、すなわち「疾走速度」はストライドとピッチの掛け算で求められるので、速く走るためには、ストライドを伸ばすか、ピッチを上げるか、もしくは両方上げるかが必要になるわけです。


ストライドとピッチはどちらが大事?

100m走のような短距離走の場合、スタートしてからピッチが急激に増加し、20m~40mあたりでピークを迎えます。一方で、ストライドはその後も伸び続けていきます。図は、100m走で日本人初の9秒台をマークした、桐生選手のレース中の速度推移や、ピッチ・ストライドの変化を示したものです。

※小林ほか(2017)より引用

 

ストライドとピッチの積が最も大きくなるところが、その選手の最大スピードになるわけです。この最大スピードは100m走の記録を決める最も重要な要因として知られています。

 

参考動画(桐生選手:9.98)

 

では、この最大スピードを高める、すなわち速く走るためには、ストライドとピッチどちらが大事なのでしょうか?

 

以下の図は、小学生の疾走能力とストライド、ピッチの関係や身長との関係を表したものです。

 

有川ほか(2004)より引用

 

有川ほか(2004)より引用

 

このように、一見ストライドが大きいほど足も速く、ピッチとはそれほど関係がないように見えますが、ストライドは身長に大きく左右されることも同時にわかります。

 

小学生は成長期ですから、高学年で成長が速い人ほど身長も高くて足が速いかった…というのは容易に想像できるでしょう。

 

そこで、身長に対するピッチやストライドと疾走スピードとの関係を見てみましょう。

 

伊藤ほか(1998)より引用

 

このように、足が速い選手は身長に対して大きなストライドで走り、高いピッチでも走っていることが分かります。

 

速く走るためには、ストライドもピッチも高めていくことが大切なのです。

 

走行時に筋肉はどう働いてる?

走っている時にピッチやストライドを生み出す重要な役割を果たしているのが、筋肉です。

 

以下の図は走行中の筋肉の活動を表したものです。

 

 

 

※馬場ほか(2000)より作成

 

脚を前にスイングし、振り下ろそうとしている局面では、大臀筋大腿二頭筋(ハムストリング)の活動が高くなっています。これは、前に素早く動く下肢にブレーキをかけて、次の接地に向かうためです。

 

地面に接地して、地面を蹴り出す局面では、外側広筋腓腹筋、大臀筋と言った筋肉がよく働いています。これは、接地の衝撃に耐えて、脚が極度に曲がってしまうことを抑えて、前への推進力を生み出すためです。

 

そして、地面を蹴り出す局面から前に腿を引きつけるタイミングでは、腸腰筋という筋肉が働いています。これは、後ろに流れていく脚にブレーキをかけて、次の接地に素早く向かえるようにするためです。

 

このように、短距離走では様々な筋肉が一連の動作の中で複雑に活動しています。

 

特にスポーツでは、どのタイミングでどれくらいの力を入れるかという「筋感覚」のコントロールが大切です。

 

一流選手の動作が滑らかに見えるのは、この筋肉感覚に優れているからだとも言えるでしょう。

 

では、実際にどのタイミングで、どういう力を発揮するのが良いのでしょうか?その意識を探っていくために、速く走るために必要な動作について見ていきます。

 

足が速い人のフォーム

脚が速い人の共通点として挙げられるのが、「接地時間が短く、接地中の脚全体のスイングが速い」ということです。

 

つまり、接地中に身体が進むスピードが極めて高いということになります。

 

 

 

そして、これを達成するために重要だと言われている動作や力発揮が徐々に分かってきています。

 

 

①足首や膝の固定

足が速い人は、地面の蹴り出しの時に足首や膝を伸ばすようなキック動作があまり見られません。

 

もしも伸ばすようにキックしてしまえば、身体が進む方向は前ではなく、上になってしまいます。

 

足や膝を固定して、ビローンっと伸び切らないようにして走ることは、合理的に体を「前に」進めるための動作であると言えます。

 

 

 

②後ろに流れる脚を素早く引き出す

速く走ろうとすれば、当然自分の身体が前に進むスピードは高くなります。すると、相対的に足が後ろに流れるスピードも高くなります。

 

つまり、足が身体の後ろに取り残されやすくなります。

 

ということは、強い力を発揮して、その脚を前に引き出さないといけません。そのために重要な役割を果たすのが、腸腰筋や大腿直筋などの「股関節屈曲筋群」です。

 

これらの筋肉が早いタイミングで素早く、脚を前に引き出す力を生み出すパワーを生み出すことで、足が流れずに走ることができます。

 

 

また、接地の時に、接地脚の膝を遊脚の膝が追い越すくらいのタイミングで脚を引き出すことができれば、自分の身体を支えて、宙に浮くための地面反力を増やすことができます。

 

 

③踵の引きつけは力を入れない?腿は高く上げない?

速く走っている人は、踵がお尻によく引きつけられて、腿が高く上がっていると言います。

 

実際に児童では、足が速いほどその傾向があります(木越ほか,2012)。

 

 

しかし、踵の引きつけや腿の高さは、脚を後ろから高いスピードで引きつけた結果であると考えられています。

 

腿を前にピュンっと引き出すことで、踵が勝手にお尻に引きつけられ、腿も高く上がったように見えるわけです。

 

したがって、この局面で踵を無理に引きつけようと膝を曲げる意識をしたり、腿を高く上げる意識をしたりするのは、あまり良くない意識であると言えます。

 

意識すべきは、とにかく腿を前にピュンっとスイングさせることで、膝から下はリラックスできると良いと言えるでしょう。

 

 

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参考文献

・小林海, 大沼勇人, 高橋恭平, 松林武生, 広川龍太郎, 松尾彰文, ... & 土江寛裕. (2017). 桐生祥秀選手が 10 秒の壁を突破するまでの 100 m レースパターンの変遷. 陸上競技研究紀要, 13, 109-114.

・有川秀之, 太田涼, 中西健二, 駒崎弘匡, & 神園竜之介. (2004). 男児児童における疾走能力の分析. 埼玉大学紀要. 教育学部. 教育科学/埼玉大学教育学部 [編], 53(1), 79-88.
・伊藤章, 市川博啓, 斉藤昌久, 佐川和則, 伊藤道郎, & 小林寛道. (1998). 100m 中間疾走局面における疾走動作と速度との関係. 体育学研究, 43(5-6), 260-273.
・馬場崇豪, 和田幸洋, & 伊藤章. (2000). 短距離走の筋活動様式. 体育学研究, 45(2), 186-200.
・豊嶋陵司, & 桜井伸二. (2018). 短距離走の最大速度局面における遊脚キネティクスとピッチおよびストライドとの関係. 体育学研究, 17008.
・木越清信, 加藤彰浩, & 筒井清次郎. (2012). 小学生における合理的な疾走動作習得のための補助具の開発. 体育学研究, 57(1), 215-224.

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