腕振りには「身体全体のバランスを保つ」「地面に大きな力を加える」「脚を素早く動かす」補助をする役割があります。
役割①「身体全体のバランスを保つ」
人は、速く走れば走るほど、長くて重たい脚を前後に素早く振り回すことになります。ここで腕を脚とは逆方向に振らなかったら、上半身は脚の動きにつられて大きくブレてしまいます。
つまり、速く力強く脚全体をスイングして地面をキックし、かつ身体全体の向きを前方向に保つには、上半身の捻りをうまく使って、それと同じくらいの力を逆方向に生み出さないといけないわけです。そのため、腕振りをしなければ、地面に強い力を伝えにくくなり、足が遅くなってしまうわけです。

役割②「地面に力を加える」
ハードルを連続でジャンプするとき、腕を後ろから勢いよく振り込むことで高く跳ぶことができます。これは経験的にも分かる人が多いはずです。垂直跳びや立幅跳びをするときにも、皆さん「大きく素早く腕を振り込む」ことと思います。
なぜ大きく素早く腕を振り込んだ方が高く跳べるかというと、大きく素早く腕を振り込むことで「地面に大きな力が伝わるから」です。体重計に乗ったまま、腕を振り下ろすように降ると、体重が少し重くなるように針が動きます。この振り子のような力を使って、地面に大きな力を伝えることでできるわけです。

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この力を利用することで、速く走っている際の非常に短い接地時間の間でも、効率的に自分の身体を浮かせることができるようになるわけです。実際に世界一流スプリンターのフォーム分析(阿江,2012)において、トップスプリンターの腕は「接地から支持期中間まで、両腕は下方に振られ、地面鉛直方向の反力を高めるのに役立っている。」とされています。
スプリントは、素早い片脚跳躍の連続です。短くなっていく接地時間のうちに、より大きな力を地面に伝えるためには、この素早い腕の振り込み動作は重要だと言えるでしょう。
役割③「脚や骨盤を動かす」
腕振りのパワーは下半身を素早く力強く動かすためにも役立ちます(深代ほか,2010)。例えば腕を前から後ろに振る力は、その側の骨盤や脚を前に引き出すのに役立ちます。
また、腕を後ろから前に振る力は、腿を下げやすくする役割や、その振り込み動作により前述の地面下方向に力を伝えたり、接地中に上半身を前に進める(=速く走る)ために貢献しています。

腕をパワフルに動かすことは、骨盤や脚などの下半身をよりパワフルに動かすための原動力とも言えることがわかるでしょう。そのため、脚を素早く力強く動かして速く走るためには、それに先行して腕をパワフルに切り返すような能力が必要になってくるのです。
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