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筋力の生理的限界と心理的限界とは?

筋力の生理的限界と心理的限界とは?

筋力の心理的限界

 

「火事場の馬鹿力」という言葉をよく耳にします。人間は非常事態に陥った時、それまで出したことのないような力を発揮することができるというものです。

 

しかし、人間はいつでもどこでも「火事場の馬鹿力」のような力を発揮することはできません。これには筋力の「心理的なリミッター」がかかっているからです。実はもっと力が出せるのに、知らず知らずのうちに自分で制限をかけているというわけです。このような、心理的なリミッターによって制限された筋力の限界のことは「筋力の心理的限界」と呼ばれています。

 

ではなぜ、人間はこのようなリミッターをかけるのでしょうか?その理由には以下のようなことが考えられています(山地,2011;寺田,2015)。

 

・筋肉や腱に大きな負担がかかり、怪我につながることを防止するため
・狩猟民族時代、獲物を追いかけて全力疾走をしたりした後、力尽きて動けなくなる…といったことが無いようにするため、その本能的な力の制限が働いているため

 

このように、心理的リミッターというのは、人間が自身の身体を守るため、そして合理的に生き延びていくために必要なものであると考えられます。ですが、危機的な状況の場合などに遭遇すると、心理的なリミッターが外れて、生理的限界に近い、非常に大きな力を発揮することができるわけです。

 

 

 

筋力の生理的限界

筋線維に電気的な刺激を与え、強制的にすべての筋線維を収縮させたときの最大筋力を「筋力の生理的限界」と呼びます。

 

ヒトの筋肉は、そもそもとても大きな力を発揮できるけれど、心理的な限界をかけることによってそれが制限されているわけです。

 

しかし、トレーニングを行うことによって、この心理的限界を、生理的限界に近づけることができます。これは、筋力を発揮するための「神経系」の能力が影響しています。筋力トレーニングを行うと、筋肉がそこまで大きくなっていなくても、大きな筋力を発揮できるようになるのは、この影響です。

 

トレーニングをしていない人間は普段、すべての筋線維を動員させて力を発揮することはできていません。必ず一部の筋線維は使われていない(使えていない)状態になっています。

 

ここでトレーニングを行うと、神経系の働きが改善され、これまで使えていなかった筋線維が使えるようになり、より大きな力を発揮できるようになるのです(福永,1978)。

 

この神経系の働きとは、①骨格筋を支配している運動神経の発火頻度が増えること、②それによって動員される運動単位が増えること、③複数の運動単位が同時にタイミングよく活動できるようになること(運動単位の同期化)などが挙げられます。

 

 

このようにして、自分の筋力の心理的な限界値は、筋肉を電気刺激で全て収縮させたときの生理的な限界値に近づくことができるわけです。

 

また、「大声を上げて、筋力を発揮すること」も、この心理的限界を高めるために効果があり、これは「シャウト効果」と呼ばれています。陸上競技の投てき選手が、試技の際に大きな声を出すことが多いのは、そのためです。

 

 

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参照文献

・寺田新. (2017). スポーツ栄養学: 科学の基礎から 「なぜ」 にこたえる. 東京大学出版会.
・石井直方(2015).石井直方の筋肉の科学.ベースボール・マガジン社.
・山地啓司, 大築立志, 田中宏暁 (編), スポーツ・運動生理学概説. 昭和出版: 東京(2011).


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