サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


陸上選手の科学的な疲労の抜き方

試合後、トレーニング後の疲労を抜きたい

激しいトレーニングをして、次の日に疲労を持ち越したくないというのは、陸上選手であれば誰しも1度は思うことです。

 

次の日も疲労を感じずトレーニングしたいですし、試合の場合は直接パフォーマンスに関わります。

 

そこでここでは、陸上選手の疲労の抜き方について、科学的な知見を加えながら紹介していきたいと思います。

4つのリカバリーポイント

疲労を抜くためには以下の4つの「R」をまず意識します。

 

YLMSportScience(The 4 R’s of Recovery)より

 

・Rehydrate(水分補給)
⇒ 言うまでもありません。

 

・Refuel(エネルギー補給)
⇒ 糖質の補給、リカバリードリンクなど。炭水化物は高GIのものを

 

・Repair(組織の修復)
⇒ タンパク質やミネラルなど。運動後と寝る前にプロテイン

 

・Relax(リラックス)
⇒ 気分を落ち着かせて回復モードに。お風呂に浸かる。
⇒ スマホの電源は就寝30分前にはオフで、睡眠8時間以上

 

結論から言うと、これらが最も効果を発揮します。

 

「いやいや、当たり前じゃん。何が科学だよ!」と思われる方もいるかもしれません。

 

しかし、当たり前のことが最も重要であると言うことを、まずは心に留めて置くべきです。

 

何か画期的な疲労の抜き方、リカバリー方法に手を出そうとしてしまって、上記4つが達成できていなければ、何をやっても効果を得ることは難しいでしょう。

 

具体的な疲労抜きルーティン

運動直後のリカバリードリンク

運動後は速やかに、糖質とタンパク質が入ったリカバリードリンクを飲みましょう。トレーニングやら試合後すぐが大切です。

 

実際に、運動後2時間経ったあとに糖質を補給するのと、直後に摂取したのでは、筋肉内のエネルギー源(グリコーゲン)の回復度合いに2倍もの差が出るとされています。

 

 

タンパク質を同時に摂取することで、さらにグリコーゲンの回復を促すことができるので、プロテインを糖質の入った飲み物で割って飲むのがおすすめです。

 

 

※Zawadzki et al.(1992)より作成

 

トレーニング後の糖質摂取についてはコチラ

・トレーニング後2時間経ってからの糖質摂取では、遅い!

 

・運動後の糖質+タンパク質+ロイシンの摂取で、インスリンの反応がより高まる

 

 

食事の「糖質+タンパク質」で疲労を抜く

リカバリードリンクを飲んだだけで安心してはいけません。リカバリードリンクはただの応急処置のような位置付けです。できる限り速やかに食事に移れるように準備をしましょう。

 

その際、タンパク質と糖質を豊富に含んだメニューを意識します。具体的には掌1〜2枚分のタンパク質源炭水化物、乳製品やフルーツを含んだ栄養フルコース型と呼ばれるメニューです。

 

 

炭水化物は高GIと呼ばれる、吸収が早く血糖値を上げやすいものにすると、回復を促せるとともに、睡眠の質を上げられると言います(Vlahoyiannis et al.,2018)。

 

 

 

お風呂に浸かって疲労を抜く

血流を良くして、全身に栄養素を行き渡らせることも重要なリカバリーです。身体を温めることはその後の睡眠の質を高めることにもつながるので、就寝90分前くらいのタイミングが良いでしょう。

 

就寝まで時間が無ければ、寝る30分前にシャワーを浴びるのでも良いでしょう。

 

 

 

身体を温水と冷水に交互にさらす交代浴も、血流を良くし、全身の浮腫を流して、疲労の蓄積を抑える効果があると言われています。就寝まで時間に余裕があればやってみましょう。睡眠時間の確保の方が先決だからです。

 

・冷水(8-15°C)で60-120秒間
・温水(38-42°C)で120秒間
・交互に合計15-20分実施

※Hausswirth & Mujika(2013):Recovery for performance in sportより

 

※Vaile et al.(2008):66回のスプリント運動を合計105分、5日連続で行い、「冷水浴」「温水浴」「交代浴」「安静」でリカバリー効果を比較した場合、「温水浴」と「安静」でパフォーマンスの低下がみられた

 

 

トレーニングとクールダウン、入浴と睡眠について

・クールダウンって意味あるの?効果的な実践方法と使い分け

 

・寝る前の入浴で、睡眠の質を改善できる

 

 

 

軽いストレッチやマッサージで疲労を抜く

気分を落ち着かせて、リラックスをすることは、疲労を抜くために重要な行いです。決して強くストレッチしたり、強くマッサージしてはいけません。逆に翌日のパフォーマンスを下げてしまうことにつながるからです。

 

 

じわじわと少し伸びるな、気持ちいいなと感じる程度にとどめておきましょう。

 

 

トレーニングでのストレッチの用い方についてはコチラ

・「実は悪影響も!?」陸上選手のストレッチの効果とやり方

 

・ストレッチのみでは怪我予防にならない

 

 

寝る前のプロテインで疲労を抜く

就寝中は食事を摂ることができないため、ここでプロテインを摂取しておくことも有効です。就寝前なら吸収の遅いカゼインプロテインを使うと良いでしょう。

 

 

トレーニング効果を促すことにも繋がります。翌日の疲労の抜け具合も違うでしょう。

 

 

・寝る前のプロテイン摂取は、筋肉量を増やす効果的な戦略である

 

 

睡眠時間は8時間以上で疲労を抜く

睡眠は疲労を抜くために、リカバリーに絶大な効果を発揮します。

 

疲労を抜くことだけでなく、トレーニング効果を高めることや、怪我を防止することにも繋がるので、毎日の睡眠時間は確実に確保しましょう。

 

・睡眠時間が8時間を切ると、怪我のリスクが1.7倍(Milewski et al.,2014)。

・睡眠時間を10時間に増やすだけで、バスケットボールのフリースローのシュート率やシャトルランなどのパフォーマンスが大きく改善(Mah et al.,2011)。
・3日間睡眠時間を8時間以上に延長するだけで持久走でのパフォーマンスの向上(Roberts et al.,2019)。
・筋肉の中のエネルギー源(グリコーゲン:糖質)の回復も遅れやすくなる(Skein et al.,2011)。

 

就寝前の30分はスマホを見ないようにする、ナイトシフトモードにするなどして、光の刺激を減らしておきましょう。

 

 

睡眠不足とパフォーマンスについてはコチラ

・睡眠不足はスポーツのトレーニングを台無しにする

 

注意: トレーニング効果を損なうリカバリー方法

冷水浴(アイシング)

冷たい水に浸かる冷水浴は、試合やトレーニング後の疲労を抜くために有効な手段である一方で、トレーニング効果を減らしてしまう側面を持っています。

 

 

なので、日常的なトレーニングの中で冷水浴の実施は控えた方が良さそうです。

 

翌日や翌々日に再び試合がある場合は冷水浴を行うことで、パフォーマンスの低下を防ぐ…と言うように、状況に応じた使い分けが大事です。

 

 

アイシングについてはコチラを参照ください。

・第26回「陸上選手のリカバリーには温める?冷やす?」

 

・アイシングはトレーニング効果を下げるので使い分けが重要

 

 

参考文献

・Ivy, J. L., Katz, A. L., Cutler, C. L., Sherman, W. M., & Coyle, E. F. (1988). Muscle glycogen synthesis after exercise: effect of time of carbohydrate ingestion. Journal of Applied Physiology, 64(4), 1480-1485.
・Zawadzki, K. M., Yaspelkis 3rd, B. B., & Ivy, J. L. (1992). Carbohydrate-protein complex increases the rate of muscle glycogen storage after exercise. Journal of Applied Physiology, 72(5), 1854-1859.
・Vlahoyiannis, A., Aphamis, G., Andreou, E., Samoutis, G., Sakkas, G. K., & Giannaki, C. D. (2018). Effects of high vs. Low glycemic index of post-exercise meals on sleep and exercise performance: A randomized, double-blind, counterbalanced polysomnographic study. Nutrients, 10(11), 1795.
・Vaile, J. (2008). Effect of hydrotherapy on recovery of muscle-damage and exercise-induced fatigue. University of Western Australia.
・Hausswirth & Mujika(2013):Recovery for performance in sport. Human Kinetics.
・Nagare, R., Plitnick, B., & Figueiro, M. G. (2018). Does the iPad Night Shift mode reduce melatonin suppression?. Lighting Research & Technology, 1477153517748189.
・Broatch, J. R., Petersen, A., & Bishop, D. J. (2018). The influence of post-exercise cold-water immersion on adaptive responses to exercise: a review of the literature. Sports Medicine, 48(6), 1369-1387.
・Mah et al. (2011) The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 34(7):943-50.
・Roberts SSH, Teo WP, Aisbett B, Warmington SA. Extended Sleep Maintains Endurance Performance Better than Normal or Restricted Sleep. Med Sci Sports Exerc. 2019;51(12):2516–2523.
・Milewski et al. Chronic Lack of Sleep is Associated With Increased Sports Injuries in Adolescent Athletes.Journal of Pediatric Orthopaedics. 2014, 34(2):129-133
・Skein, M., Duffield, R., Edge, J., Short, M. J., & Muendel, T. (2011). Intermittent-sprint performance and muscle glycogen after 30 h of sleep deprivation. Medicine & Science in Sports & Exercise, 43(7), 1301-1311.

サイト全記事一覧へ

~サイト内の関連記事を検索~


Youtubeはじめました(よろしければチャンネル登録お願いします)。